はぃどぅもぉ。
さて、今回は2週目のディズニーアニメーション映画史。時代は1950年代に突入し、ディズニーアニメーションスタジオは安定期に入ります。
第二次世界大戦やストライキ、大作の収益的失敗に悩まされ、長い低迷期となった1940年代。
その負の連鎖に歯止めをかけたのが「シンデレラ」でした。
当時危機的状況だったスタジオと長編制作継続でしたが、このシンデレラの大成功のおかげで無事事業は継続・拡大していく運びとなり、保留となっていた幾つかの長編作品プロジェクトも一気に動き出します。
そんな中でまず公開されたのが前作の「ふしぎの国のアリス」。そして2年後、アリス同様10年以上の期間に渡って温められてきた大作を発表。
そしてこの作品が、ディズニースタジオ1つの時代の終わりと始まりを告げる大きな歴史的ターニングポイントとなるのでした。
(※当ブログは基本ネタバレありです。ご了承下さい。
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ピーター・パン
(原題:Peter Pan)
1953年
監督
ウィルフレッド・ジャクソン
ハミルトン・ラスク
クライド・ジェロニミ
データ
ウォルトディズニーアニメーションスタジオ14作目の長編アニメーション。
原作はイギリスの作家ジェームス・マシュー・バリーの有名な戯曲「Peter Pan; or, the Boy Who Wouldn't Grow Up」及び同作を小説化した「Peter and Wendy」。前作のアリス同様非常に高い知名度を誇る世界的な作品です。
基本的にな設定や大筋は踏襲しながらも原作のダーティーな奥深さを大幅に削除し、子供にもわかりやすい勧善懲悪のストーリーに調整されました。
ウォルトが幼少期に観劇した戯曲が発案の大元となっており、元々は白雪姫に続く長編作品第二弾として計画されていましたが、映画化権利獲得に少々時間がかかり、その後間もなくして第二次世界大戦が悪化。
何度も中断と再開を繰り返しながら水面下で制作が行われ、シンデレラの成功を受けてようやく本格制作が開始。
1953年に晴れて日の目をみる事となりました。
これまでディズニーのほぼ全ての作品をまとめ上げてきたベン・シャープスティーンが前作のアリスを最後に実写部門に移り、今作はほぼ初めて彼なしで制作された長編作品となりました。
監督を務めたのはディズニー最初期メンバーであり、特に1950年代の各種作品を中心となり支えたウィルフレッド・ジャクソン。
さらに同様に当時のディズニーの中核を担っていたクライド・ジェロニミとハミルトン・ラスクが務めました。
前作「シンデレラ」「ふしぎの国のアリス」とほぼ同じ布陣ということになります。
音楽はこの時期のディズニーミュージックの要として大活躍していたオリバー・ウォレス。
楽曲は前作の「ふしぎの国のアリス」でもディズニーに沢山の名曲をもたらしてくれたサミー・フェインと数々の受賞歴を持つ実力派の作詞家サミー・カーンの2人がメインとなり制作。
大筋は原作通り、ロンドンに住むウェンディとその兄弟が永遠の少年ピーター・パンと出会い、ネバーランドを冒険するファンタジーアドベンチャーとなっています。
主人公ピーター・パン役を務めたのは、当時実に様々なディズニー作品に子役として出演していた売れっ子のボビー・ドリスコール。
しかし彼はこの作品の直後、成長による容姿の変化を理由にディズニーから専属契約を期間内にも関わらず突如打ち切られ、失意の中薬に手を染めた挙げ句ホームレスになり31歳という若さでその生涯を終えています。
それ以来彼はある意味ディズニーの黒歴史としてほぼクローズアップされる事はなかったのですが去年公開された短編「ワンス・アポン・ア・スタジオ」ではなんとアーカイブ音声としてピーター・パン役に復帰。ファンを大いに喜ばせるサプライズとなりました。
日本語版は岩田光央さん。
もう一人の主人公ウェンディを演じたのはイギリスの女優キャサリン・ボーモント。前作「ふしぎの国のアリス」のアリス役でも知られています。
アリス同様本作も役者の実写演技をトレースしてアニメーションを作成する手法がとられており、彼女はウェンディのトレースモデルを務めました。
2作連続の主要キャストという事で、彼女は実に幼少期のこの時期3年近くをディズニーで過ごしています。日本語版は渕崎ゆり子さん。
フック船長役にはハンス・コンリード。
日本語版は大塚周夫さん。
ミスター・スミーを演じたのはアリスの白うさぎやわんわん物語のジョック役でも知られるビル・トンプソン。
日本語版は熊倉一雄さん。
前述の通り制作統括のベンの離脱やピーター役のボビーの契約解除等に加え、これまでディズニー作品を支えてきたメアリー・ブレアやノーム・ファーガソン、そして本作の制作中に交通事故で急死したフレッド・ムーア等多数の有名クリエイター達が携わった最後の作品。
同時にナイン・オールドメンと呼ばれるディズニーのベテランアニメーター集団が揃った最後の作品ともなりました。
まさに黎明期クラシックディズニーと呼ばれる時代に終焉を告げた作品。
と同時に、これまでディズニーが目指してきた芸術性や原作再現よりも、よりわかりやすいファミリーエンターテイメント性に大きく舵を切った、現在のディズニーのパブリックイメージの原型とも言えるはじまりの作品でもあると言われています。
収益面ではシンデレラに勝るとも劣らない大ヒットを記録して見事な成功を収めます。
評価面でも【原作との乖離】や【差別的表現】にやや批判が上がるものの、その楽しい音楽やアニメーション、キャラクター力の秀逸さが大きく評価されファミリーエンターテイメントとして広く好意的に受け入れられました。
現在でもディズニーを代表する作品の一つとして、国内外で圧倒的認知度と人気を維持し続けています。
グッズ展開や続編、スピンオフ、実写化等も断続的に行われ続けていて、子供にも大人にも広く愛され続ける正に不朽の名作です。
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あらすじ
ここはロンドン。
ダーリング家では、家長のジョージとその妻メアリーが今夜のパーティに出かける準備に追われていた。
二人の子供達、男の子のジョンとマイケルは【ピーター・パン】のお話に夢中。今日もピーター・パンのごっこ遊びで、図らずもジョージ達の邪魔をしてしまう。
その原因は長女のウェンディだった。
彼女は母から聞かされたピーター・パンの話しを信じ、ジョンとマイケルに毎日のように話して聞かせていたのだ。
パーティの準備を邪魔されて頭に血が上ったジョージは、世話係のナナを屋外へ追い出し、ウェンディを1人部屋へ移すと宣言する。
落ち込むウェンディを他所に夫妻はパーティへ出かけていった、そしてその直後。
家主が居なくなったダーリング家に忍び込もうとする1人の少年の姿があった…。
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感想
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20240123/18/yuzupill/8c/63/j/o0600040915392847650.jpg?caw=800)
正直に言うと、オムニバスを除く「白雪姫」〜今作までの作品群の中で、個人的に最も心を動かされないのがこの「ピーター・パン」です。
そんなはずはないと思って何度も観たんですけどね。
良いところはホントに沢山あるのに何故あまり心が動かないのか…。
それは何故だろうと考えて思い当たったのが「何をしたい作品なのか」が、ここまでの作品群の中で唯一パキッと伝わってこないんですよね、ピーター・パンは。
これまでの
白雪姫、ピノキオ、ファンタジア、ダンボ、バンビ、シンデレラ、ふしぎの国のアリス…
は、どれも「ディズニーがこの作品を通して何をしたいのか」が明確に伝わる作品ばかりでした。
原作がある作品でもディズニーなりに咀嚼し、独自のテーマとヴィジョンを持って、見せたいものを明確に作品で表現していました。
それがこの作品には感じられないんですよね。
【ピーター・パンをアニメーション映画化する】
という目的以外、明確なものがイマイチ伝わってこない。
アニメーションや技術的な部分は本当に素晴らしいんですが革新的なものはほぼなく、既存のディズニーの経験とテクニックを発揮しているに過ぎません。
ストーリー的な所ではウェンディの成長やピーターと子どもたちの邂逅、ネバーランドのディテール、ティンクとピーターの関係性、などなど様々な要素がありますがどれも触る程度…なんですよね。
そして一番のテーマであろう
【童心と大人になること。そして信じる心。】
この一番大事な所が如何せん弱い。
ネバーランドでの経験とこのテーマがうまく連動してないんですよね。
どう頑張っても「素敵だった、ずっと忘れないわ」とならないですよね、あの経験は。
間違いなくトラウマでしょうw
個人的には実はこのシリーズはオリジナルより「2」の方が好きなんですけど、その一番の理由がここです。
「2」ではウェンディの娘ジェーンがネバーランドの経験を通して成長・変化する姿がしっかりと描かれています。
このオリジナルは正直ネバーランドで遊びすぎてそこがしっかり描かれていないんですよね。
んーわかりやすく言うと…
この作品がやりたいことって要は「となりのトトロ」だと思うんです。ざっくり言うとですが。
で、エンタメ的要素は一旦置いといてプロットだけで両者を比較したとき、そのプロット力の差は正直明白ですよね。
もちろんディズニー映画というのはプロットを伝えることに基本的に重きをあまり置いてないエンターテインメント映画です。
実際この映画も音楽やアニメーション美術、キャラクター力とコメディ力はホントに物凄い作品です。
ただ、全てがなんか取り止めなくていったい何をメインに魅せたい映画なのかというのがやっぱりイマイチ不透明なんです。
だから個人的には何度見てもしっくり入り込めないんですよね。
もちろん個人の感想ですが。
ただ1つ。
これはもう本当に文句なしに素晴らしいと思ったのは、冒頭の冒頭。
ナレーターの喋りだしの台詞です。
「これは今まで幾度も起こってきた出来事であり、これからも起こり続ける出来事です。」
というこの一言。
こんな素晴らしい語りだしあるでしょうか。
ある意味、本編以上にこの作品の真意を捉えた一言だと個人的には思いましたね。
※最高のヴィラン
個人的に何よりこの映画の偉大だと思う部分は、フック船長の存在でしょう。
愛され続けるディズニー映画の悪役達ですが、その走りがこのピーター・パンのフックです。
そう、ディズニーの定番のひとつである「悪いんだけど何か魅力的で主人公より気になっちゃう悪役」の完成形を見事に作ったのがこの作品。
粗暴で暴力的、紳士ぶるけどマヌケでズルくて意気地なし…。
どこからどうみても悪役なんだけど何故か憎めない。そんなフック船長はこの作品で個性のうえでは主役のピーターを軽く食っています。
個人的にはワニに襲われた時のフックの動きのギャグが大好きで、ディズニー史上ナンバーワンの笑えるコメディの1つだと思ってます。
このシーンだけでも長い時間かけて作り込んだことが手に取るようにわかりますね。
最後ピューンと弾き飛ばされて水面を小石のように跳ねながらフェードアウトしていく後ろ姿なんかもう最高です(笑)
※エンターテイメントとして
前述した通り、この作品は原作への準拠や映画としての深みやテーマよりもエンターテイメントとしての魅力を追及した作品です。
特に今も世界的に有名なピーター・パンやウェンディ達のロンドンでの飛行シーンや、インディアンの下り、ネバーランドやティンカー・ベルの作画的美しさ、ピーター・パンの飛行を使った数々のアクションシーン、そして前述のフックとワニに代表するギャグ要素の逸品さ等、見処は本当に沢山あります。
作品としてまとまりに少々欠ける分、各シークエンス単体で見るとどれも非常に魅力的な仕上がりになってるのは間違いありません。
個人的に好きなのはフックがティンカー・ベルを騙しピーターの隠れ家の場所を聞き出すシーン。
フックの演技力も相まって非常に雰囲気と緊迫感とシュール味のある良いシーンだと思います。
あとはロンドンのダーリング家のシーン。
滑らかに活き活きと動くキャラクター達とギャグの小気味よさがホントに楽しく、ある家庭の日常を丁寧に切り取った素敵なシーンです。
そしてやはり音楽。
今回はこれまでよりもガッツリしたミュージカル要素は薄めですが、それでもやはり誰もが知っているであろう「The Second Star to the Right」や「You Can Fly」はホントに最高の劇伴だと思いますね。
この作品の雰囲気をグッと締めてくれている気がします。
そして各キャラクターの魅力的なデザイン力と個性付け。
これも細かくて本当に素晴らしいです。
特にティンカー・ベルとミスター・スミーのキャラクター力はホントに圧巻の出来ですよね。
特にティンカー・ベルはこの後一躍ディズニーを代表するキャラクターとして脚光を浴びることになりますからね。
何も考えず楽しむファミリーエンターテイメントとしてはやはり秀逸な作品であることは間違いありません。
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まとめ
この後の作品群を見てみても明らかに、このピーター・パンは間違いなくディズニー映画の大幅な作風の転換期となっています。
これまで作品のエッセンスとして欠かせなかったディズニーの狂気的な部分があからさまに鳴りを潜め、ポップでわかりやすく、所謂メジャーな作風に。
端的に言うと、極端な全年齢対象のファミリー向け作品を作為的に作ろうとした、ディズニー最初の長編映画じゃないでしょうか。
まぁそれでも普通に「殺す」とかいう暴力的な台詞が出てきたり差別的描写があったり、まだまだ名残りはあるのですが…。
原作で子供であるがゆえの残酷さを持ったピーターは、少々お調子者な部分はありながらも一本気で優しい少年ヒーローとして描かれ、悪役でありながら紳士的で実は筋の通った大人であったフックは、ひたすらドジで間抜けで小ズルい小悪党として描かれています。
まぁディズニー初期の狂気をはらんだトリップムービーの系譜はふしぎの国のアリスでやりきった、というのもあるのかもしれません。
そして、完成間近だったディズニーランドへ向けたイメージ作りというのもきっと多いにあったのだと想像できます。
ピーターが自ら手を汚さずフックが自滅に近い形で決着がつき、ワニに食われたのに死なない最後なんかはとても象徴的であり、今後のディズニー作品でも多様されていく手法となりました。
余談ですがこれまで白雪姫から大人も楽しめる芸術性の高いアニメーションを目指していたディズニーは、この時期から子供向けテレビ番組への参入など、明らかにターゲットを再びファミリー層へと戻すような施策をいくつも行っています。
あらゆる意味でやはり良くも悪くも、現代に続くディズニーの【勧善懲悪で単純なストーリーとエンターテインメントに特化した作品を作るスタジオ】というイメージを作り上げた作品だったんだなと思います。
間違いなく何かひとつの時代が終わり、新しい時代の幕を開けた作品。
ディズニーにとって間違いなく明らかな転機を形作った作品。
それがこのピーター・パンです。
個人的にはやはりハマりきれなかったのは確かですが、素適な部分ももちろん沢山ある、ディズニーの秀逸なアドベンチャーエンターテイメント作品である事は間違いありません。
色々な意味で、ディズニー作品を語るうえでは絶対に欠かせないマスターピースとなる一本です。
子どもの頃見たけど…なんて方には是非大人になったその視点で、もう一度改めて観て頂きたい作品ですね☆
「ピーター・パン」はディズニープラスにて現在配信中です♪
はい。というわけで!
今回はこの辺で。
いつも長文駄文にお付き合い頂き本当にありがとうございます。感謝です!
では、また次回!
しーゆーねくすとたぁいむー。