ディズニー映画語り イカボードとトード氏 | すきなものしか語れない

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元ディズニーシー長年単パサー。今はおもにディズニー映画中心に好きなものだけ勝手に語るつまらないブログです。Dヲタだった頃の記事は思い出として残してます。


はぃどぅもぉ。



さて、今回は2週目のディズニーアニメーション映画史時代はディズニー長編アニメーション初期低迷期の佳境


史上初の長編カラーアニメーション「白雪姫」空前の大ヒットを記録したディズニーでしたが、その後の超大作「ピノキオ」「ファンタジア」等の収益的失敗、さらに第二次世界大戦の過激化もありその後は苦境を強いられることになりました。


「ダンボ」の成功や国務省から依頼されたプロバガンダ映画2作品収益面でも評価面でも成功を納め倒産の危機は免れたディズニーでしたが、主要スタッフの徴兵による欠損、さらのその上でプロバガンダ作品人員と時間が割かれてしまう等、思うような映画製作が行えない歯痒い状況終戦後も続くことになります。


状況を打破するため長編大作「シンデレラ」の制作に入りますが、完成までの資金集めと時間稼ぎの為にオムニバスパッケージ長編はいましばらく継続する事になりました。


前々作「ファン・アンド・ファンシー・フリー」で温めていた長編用2作のアイデアを使用したスタジオは、残った2つの中編作品を組み合わせこの時代最後のオムニバス長編を公開します。


そしてこの作品こそが、ディズニー史に燦然と輝く最大の異端作となるのでした…。


(※当ブログは基本ネタバレありです。ご了承下さい。)



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  イカボードとトード氏

(原題:The Adventures of Ichabod and Mr. Toad)
1949年
総監督
ベン・シャープスティーン
監督
ジャック・キニー
クライド・ジェロニミ
ジェームズ・アルガー



データ


ウォルトディズニーアニメーションスタジオ11作目の長編アニメーション。


激動の1940年代の締めくくりとなる1949年に劇場公開されました。


何度も中止と再開を繰り返しながら約10年をかけて制作が行われていた「たのしい川べ」に新たに立ち上がった作品「スリーピー・ホロウの伝説」を組み合わせた2本の中編作品によるオムニバス長編作品


全体制作を指揮したのは黎明期ディズニーを引っ張った名プロデューサーのベン・シャープスティーン。この時期のほぼ全てのディズニー作品は彼が取りまとめていました。

監督はジェームズ・アルガー「たのしい川べ」を、クライド・ジェロニミ「スリーピー・ホロウの伝説」を担当。共にディズニーレジェンドの称号を持つ2人です。さらにジャック・キニーが2作品を兼務で担当しています。キニーはあの有名なグーフィーの教室シリーズ(Goofy How to...)を生み出したことでも有名な人物です。

脚本にはディズニーストーリー部門初代責任者であるテッド・シアーズをはじめ、ホーマー・ブライトマンアードマン・ペナー等の主力スタッフが多数参加しています。

音楽はオリバー・ウォレス、楽曲にフランク・チャーチルチャールズ・ウォルコット、歌詞をラリー・モーリーレイ・ギルバートという、ルーキーとベテランが入り混じった布陣で手掛けました。

原作はイギリスの作家ケネス・グレアムによる児童小説「柳の風」、そしてアメリカのワシントン・アーヴィングによる短編小説「スリーピー・ホロウの伝説」
どちらも基本筋は原作通りですが特に「柳の風」の方は全体の短縮化も含めて大きな改変が行われています。

【イギリスとアメリカの凄い偉人を紹介する】という趣旨のナレーションと短い繋ぎの映像と共に30分程度の中編エピソードが2本展開されていくオムニバス


「たのしい川べ」ナレーションを務めるのは「シャーロック・ホームズ」で有名なバジル・ラスボーン。日本語版は柴田秀勝さん。

主役のトード役にエリック・ブロア
日本語版は内田直哉さん。

愛馬シリル役には「ふしぎの国のアリス」ディーダムセイウチオイスター等多役を演じ話題になったコメディ俳優のJ・パット・オマリー
日本語版は落合弘治さん。

通常のキャラクターカートゥーンとしてキャスティングが行われた「たのしい川べ」とは違い「スリーピー・ホロウの伝説」ビング・クロスビーがナレーションからキャラクターボイスまでほぼ独り語りで物語を進行していきます。
日本語は水野賢司さん。


6作続いたディズニーオムニバスシリーズに対する世間の食傷反応はこの時最高潮に達しており、今作は興行収入としては失敗に終わりました。

しかし評価面では公開当時から【これまでのオムニバス シリーズとは 毛色の全く違う異色作】として注目を集め、特に評論家たちからは隠れた名作として非常に高い評価を獲得し続けています。

中でも「たのしい川べ」【ディズニー史上最も素晴らしいカートゥーン短編】という評価もとても多く、法廷劇〜脱獄劇というスピーディーで見どころの多い構成ユーモアと風刺のバランス等が多方面から称賛されました。

反対に「スリーピー・ホロウの伝説」はそのディズニーらしからぬ主人公の設定奇抜な展開が一般層のコアなファンに受け、現在では一部でカルト的な人気を誇る作品となっています。

これまでのオムニバスと同様2エピソードはそれぞれ単独の作品として編集やアレンジが行われた上で、テレビやソフト・劇場での再リリースが幾度も行われ同時期のオムニバスシリーズの中でも比較的高い知名度を維持し続けています。

日本では劇場未公開、ソフトも未発売(スリーピー・ホロウの伝説のみビデオ販売歴あり)の為非常に知名度が低く、長らく話題に上がることも少ない作品でしたが昨今ではディズニープラスで配信が行われた事でその知名度も上昇。アメリカ同様ファンからカルト的支持を集めています。

去年公開された短編「ワンス・アポン・ア・スタジオ」でもトード氏イカボードがそれぞれ1ショットアップ登場し話題となりました。


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あらすじ



※たのしい川べ

ヒキガエルのトード氏は先祖から受け継いだ豪邸に暮らす金持ちだったが金遣いがとても荒く、新しい物を見つけるとすぐに夢中になってしまう悪いクセを持っていた。

トードの住む屋敷は周囲に暮らす人々の誇りであった事もあり、友人で会計士のマクバジャーが屋敷の管理のためトードの金銭のやり繰りをフォローしていたが、最近トードが新たに始めた幌馬車の趣味が再び財政を圧迫し、屋敷の存続は窮地に陥る。

トードの友人ラットとモールはマクバジャーに頼まれ悪いクセをやめさせようとトードの説得を試みる。しかしトードは話をきくどころか今度は新たに目撃した最新の乗り物自動車に心を奪われてしまった。

ラットとモールはトードを阻止しようと彼を寝室にとじこめるものの、彼はすぐに脱走してしまう。

そして翌日、なんとあのトードが窃盗の罪で警察に逮捕されたという大ニュースが町中に流れる…

法廷で自ら自己弁護することにしたトードは勝利を確信していた。

しかし、そこにはとある陰謀と罠が待ち受けていたのだった…。


※スリーピー・ホロウの伝説

小さな村スリーピー・ホロウに赴任してきた教師イカボード。

奇抜な見た目と風変わりな性格をしたイカボードだったがどういう訳か村人たち、特に女性たちの心を掴みたちまち人気者となる。

そんな時、村一番の美人であり富裕者の娘・カトリーナの美貌と財産に惹かれたイカボードはアプローチをかける。

しかし以前からカトリーナに惚れている村の青年ブロムがイカボードのライバルとして彼女を取り合う。

そんなブロムの邪魔立てを意に介さずカトリーナとの距離を縮めるイカボードだったが、そんな時に開かれたハロウィンパーティーの夜、彼に大きな恐怖がふりかかる…。


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感想



いやぁ。

狂ってますね。

ホントにこの時期のディズニー作品はどれもどっかでネジが1本抜けてます。

そんな中でも最高の狂い具合

「三人の騎士」映像的視覚的な狂気じゃなく、内面の狂気が前面に出た作品ですね。

先に言っておきますが、二本ともクオリティはめっちゃ高いです。

作画、音楽、ストーリーの起伏、キャラクターの個性、どれも本当に申し分ない。

音楽やキャラクターのおかげで観ていて楽しく、展開も軽快で飽きません。

言っては悪いですがこれまでのオムニバスシリーズの短編とはその作品としての質まるで別物です。特に「たのしい川べ」
何度も何度もウォルトによるダメ出しを喰らいながら長編用として育てられてきたというエピソードも納得のクオリティです。


現在のディズニー長編作品の基礎とも言うべき技術やノウハウがこの辺りで既に完成されていたのが観ていてわかると思います。


そんな傑作2つが収録されたこのオムニバス。

何が狂気的かと言うと…
簡単に言うと【悪趣味】という言葉になるでしょうかね。

この2つのエピソード、知ってる方には説明不要だとは思いますが2本共に主人公がディズニー屈指の問題児】として有名です。

一人は最新の流行に目がなく相続した財産で遊びまわり、破産寸前に追い込まれ友人に迷惑をかけ、それでも散財をやめないカエル。

もう一人は女性と子供の親に媚びることしか考えておらず、逆玉の輿のを狙って金持ちの娘に近寄る教師。

二人共所謂ダメンズです。

どちらのエピソードもそのダメ男が痛い目に合うという大筋は共通しているのですが、その描き方が何とも絶妙に悪趣味なんですよねw

一見見ると共に教訓映画のような筋書きなんですがこれがまた見事に【1ミリの教訓もメッセージも感じない作り方】になってるんですよ。

かといってヒールが痛い目にあう爽快感も皆無

もちろん悪事を格好良く見せるダークヒーローのような魅せ方まったくしていない

言い方選ばずに言うと【どの方向にも振り切らないヌルっとした気持ち悪い展開】の仕方をするんですよね。

しかもそれでいて冒頭に【イギリス(アメリカ)】で最も偉大な人物をご紹介します】みたいなナレーションが入るという。。

観客にどういう気持ちになって欲しいのかがまったくわからないんですよねw

ここで笑って欲しい、泣いて欲しい、怒って欲しい、そういう意図が大なり小なり作品にはあるのが普通なんですが、それがホントに物凄く分かりにくい作品なんです。

80年代くらいまでのディズニーには少なからずそういうシュールな要素があるんですが、この「イカボードとトード氏」はその最たる作品だと思いますね。

ある意味では観ている人を小馬鹿にするような悪趣味さを感じる作品であり、ある意味では最も純粋なエンターテインメント作品であるとも言えます。

基本的に見たあとに何も残らないのがディズニー作品の本来の魅力だと思っているのですが、今作に限っては【ある種の何か】が観たあとに残ります。

これをモヤモヤと取るか余韻と取るかはたまた空虚感と取るかでこの作品の印象はだいぶ変わってくると思いますね。

個人的にはディズニー歴代作品の中でも圧倒的個性を誇る唯一無二の素敵な作品だとは思いますね。


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たのしい川べ




陽気で向こう見ずな遊び人の蛙・トードが主人公の物語。ミッキー&フレンズの短編シリーズやオリビアシリーズ等に通ずる、動物が人間のように暮らす所謂ディズニーが得意とする王道の擬人化アニメーション。

ですが今作の面白いのは擬人化した動物と人間が完全に共存していること。
これはありそうであんまり無い設定ですね。

ストーリーがちょっと独特で、裁判や投獄、脱獄劇等結構ふりきれた展開を見せます。
主人公トードのダメ男ぶりも見事で、一本のエンターテイメント作品としてかなり完成された作品です。この「たのしい川べ」は制作当初からウォルトは難色を示し、スタッフが激推ししてなんとか発表にこぎ着けたという経緯たがある作品なんですが、長編作品にしてもおそらく成功していたんじゃないでしょうかね。

起承転結スピーディーに展開していくので観ていて飽きませんし、ポテンシャルは相当高いです。

トードが痛い目に合ってあのまま改心していれば素敵な教訓映画になったところなんですが、それを敢えてしないのがこの時代のディズニー。

まったく反省の色が見えず救いようのないトードに絶望する仲間たちに向かって「トードみたいな友達を持って羨ましいですね。」とナレーションが見事な嫌味を言い放って終わるというシュールっぷりです。

演出や表現もパッとみ子供向けカートゥーンなんですけど良く見ると大人しかわからないような風刺皮肉も込められていて、やはりこの時期独特の毒をたっぷりと内包した作品であることは間違いないです。

当初クリエイター達はダンボのような作品を目指して制作に取り掛かったようですが、結果的にこういう形のシニカル気味な中編作品として公開されて、これはこれで良かったと思いますね。


スリーピー・ホロウの伝説




とある田舎町の学校に赴任してきた教師が主人公。変わり者の教師が金持ちの娘である美人に恋をして恋敵と奪い合う、という筋だけみればこちらも王道パターン。
ただ、実際に見てみると王道とは程遠い作品であることがすぐにわかると思います。

やっぱりまずはこのイカボードという主人公の絶妙なクズっぷりですね。
全ディズニー作品の中でおそらくNo.1のクズ…というか不快な主人公じゃないでしょうか。

↑上の写真なんかどう見てもディズニーヒーローのヴィジュアルじゃないですもんねw
どちらかというとヴィランでしょう。

この作品はよく【WDAS唯一の本格ホラー映画】として話題になることも多いのですが、これに関しては実はディズニー映画と同等かそれ以上にホラー映画を愛好しているおときちから言わせてもらえば、、

【ホラー映画を舐めないで頂きたい。】

の一言でしょうか。


おそらくこの主人公のゲスっぷりラストの落ちを見越してのことだとは思いますが、ここで一つ浮き上がる疑問

それは他キャラクターにも善人が見当たらないことです。主人公が惚れる美女も、結局終始二人を天秤にかけて思いっきり弄んでいる描写しかないですし、ならば恋敵はと見てみると、美女と野獣のガストンから毒素を抜き取ったような薄いキャラクターで、悪人ではないですが決して善人でもない、中途半端なキャラ設定。

この「かわいげがあるキャラが一人もいない」事態が、クライマックスの展開やラストのバッドエンドをいっそう空虚なものにしている感があります。

ハロウィンのミュージカルや恋敵のブロム、この辺りもうまくクライマックスの展開と絡ませないと、観客はついていけません

唐突すぎて、終わったあと空虚感しか残らないんですよね。

ホラー映画一番大事なのはメインの怖がらせ演出ではなく、人間描写なんですよね。

慣れないホラー作品で、そこをちょっと軽んじてしまったかなとは思いますね。

性根の悪い教師痛い目にあいまともな人達幸せになるようなホラーストーリーを意図したのでしょうが、これがまったく意図通りになってないのが、なんとも。



こちらも演出作画音楽はとても独特で手が込んでいて素晴らしいんです。

特にクライマックスのミュージカルシーン首なし騎士とのアクション圧巻ですね。

話によればウォルトはこの首なし騎士のシーンに並々ならぬこだわりを見せ、多大なリテイク要求を繰り返した結果完成後に大勢のアニメーターが退職してしまったと言われています。


そして何処まで意図しての事かはわかりませんが、この全てが少しズレてるような独自の空気ニッチな空虚感が、一周回ってこの作品の魅力になってる事もまた事実なんですよね。

敢えてやってるとしたらそれこそかなり悪趣味ですけどねw

ただしこれは前提として【ディズニー映画がこれをやった】という面白さから来る魅力である事も事実だと思いますね。

他の会社の作品だったらおそらく見向きもされないでしょう。

ファンの間で人気があるのも分からなくはないですが【これがディズニーのファンがオススメする作品だ!】と推しだすには、少々構成やプロットが雑すぎるかなとは思いますね。


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まとめ





んー。

トータルするとなんかマイナス意見が多くなっちゃった感じであれなんですが、個人的にはこの作品、、やっぱりかなり好きです(笑)


全体的にはやっぱり【悪趣味で空虚】という言葉につきるんですが、前述のとおり今はあまり見られないディズニーの狂気の部分を存分に楽しむことができます。

そしてある意味、観ている人の期待と予想を裏切る純粋なエンターテインメントとも言えるんですよね。

何か深いものを残そうとする昨今のアニメや映画の風潮とは真逆の方向を敢えて行ってる作品でもあるんです。
2作とももっと深みや教訓をもたせようとすればいくらでもできる題材ですからね。

それをことごとく外しているのが個人的には最高にシュールで狂ってて好きです。


狂気とファンタジーってのは、本当に紙一重なんですよね。

作品中に流れる独特の雰囲気になります。


ディズニーのある種の、この時期もっている不穏さとか不安定さとか、そういう物が奇跡的に1本の作品としてうまくまとまったある意味集大成的な作品でもあり、今後シンデレラからはじまる長編傑作ラッシュとなった1本であることは間違いないですね。

あ、あとやっぱり「たのしい川べ」は普通に細かいこと抜きにして傑作カートゥーンなので!

「イカボードとトード氏」は現在ディズニープラスで配信中です!

興味がある方はぜひ一度どうぞ!






はい。


というわけで今回はこの辺で!



今回も長文駄文にお付き合い頂きありがとうございました♪



また次回。



しーゆーねくすとたぁいむー。