ハイドウモ。
さて、今回は2週目のディズニーアニメーション映画史。時代は正にディズニー長編アニメーション黎明期。全てが始まり動き出した時代です。
史上初の長編カラーアニメーション「白雪姫」が空前の大ヒットを記録したディズニーでしたが、その後の超大作「ピノキオ」「ファンタジア」等の収益的失敗、さらに第二次世界大戦の過激化もありその後は苦境を強いられることになりました。
「ダンボ」から始まった低予算作品を継続するしかない状況だったディズニーは国務省から依頼されたプロバガンダ映画2作品を公開し、これが収益面でも評価面でも成功を納めます。
倒産の危機は免れたディズニーでしたが、主要スタッフの徴兵による欠損、さらのその上でプロバガンダ作品へ人員と時間が割かれてしまう等、思うような長編映画製作が行えない歯痒い状況は終戦後も続くことになります。
そんな中での苦肉の策として、前2作「ラテン・アメリカの旅」「三人の騎士」で成功したオムニバスパッケージ長編を継続する事にしたディズニーが前作「メイク・マイン・ミュージック」に続いて公開したのは、人気キャラクターを大胆に起用したこちらの一本でした。
(※当ブログは基本ネタバレありです。ご了承下さい。)
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データ
ウォルトディズニーアニメーションスタジオ9作目の長編アニメーション。
第二次世界大戦の影響が色濃く残る1947年に公開されました。
もともと長編作品として水面下で制作されていた2本を中編にまとめ、縦軸のストーリーを組み合わせたオムニバス長編シリーズ第4弾。
収録されている中編作品は「ボンゴ」と「ミッキーと豆の木」の2本です。
この2本を縦軸のストーリーが繋ぐ構成となっています。
全体制作を指揮したのは黎明期ディズニーを引っ張った名プロデューサーのベン・シャープスティーン。
この作品は基本的に1941年の「ダンボ」の成功を受けて本格始動した2本の作品を繋いだ同作の言わば精神的続編作品でもあり、各セクションの監督にもそれぞれジャック・キニー 、ビル・ロバーツ、ハミルトン・ラスクといった「ダンボ」の成功を支えた面々を中心にした布陣となっています。
実写パートの監督はウィリアム・モーガンが務めました。
脚本にはホーマー・ブライトマンやエルドン・デディーニ、テッド・シアーズ等この時期のディズニーの主要ストーリークリエイター達が揃っています。
音楽はオリバー・ウォレス、ポールスミス、エリオット・ダニエル、チャールズ・ウォルコット等に加え「星に願いを」のネッド・ワシントンも参加。
この時期のディズニーミュージックの全てを注ぎ込んだような豪華なメンツです。
原作はそれぞれシンクレア・ルイス作の児童小説「リトルベア ボンゴ」とイギリスの童話「ジャックと豆の木」。
さらにインターバルシークエンスには「ピノキオ」からジミニー・クリケットやアメリカ腹話術師の第一人者エドガー・バーゲンが登場。
ストーリーテラーとしての役割を担います。
「ミッキーと豆の木」の主役を務めるミッキー・マウス役にはウォルト・ディズニー。
今作はウォルトが最後にミッキーの声を演じた映画としても有名です。日本語版は青柳隆志さん。
ドナルドダックにクラレンス・ナッシュ、グーフィーにピント・コルヴィッグ(それぞれ日本語は山寺宏一さんと島香裕さん)というお馴染みの布陣。
さらにジミニー・クリケット役にオリジナル同様のクリフ・エドワーズ、日本語は肝付兼太さんも出演。
ボンゴパートのナレーションには歌手のダイナ・ショア。日本語はアンパンマンや日本の映画ドラマでも著名な戸田恵子さん。
実写パートには腹話術師のエドガー・バーゲンと「南部の唄」のルアナ・パットンが本人役で出演しています。
収益面では前2作と同様一定の成果を得ますが、評価面では「平凡すぎる」「実写パートの必要性が疑問」という意見が目立ち、公開当時はあまり好評ではありませんでした。
しかし、年月を経る事にそれぞれの中編「ボンゴ」と「ミッキーと豆の木」は良質なディズニー短編として再評価され、再編集や新たなエピローグを使用した別バージョンが付与されたうえで何度も再リリースが行われています。
日本でも長編作品としての知名度は低いものの、各中編作品はそれぞれ編集版ソフトがかなりの出荷数を記録していて、世代によりバラツキはあるものの特に「ミッキーと豆の木」はミッキーの代表作の一つとして高い知名度を維持しています。
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あらすじ
旅のコオロギ、ジミニー・クリケットは気ままな旅の道中で主のいない一軒の家屋に立ち寄る。
そこに居たのは悲しそうな顔をした女の子の人形とくまのぬいぐるみ。
気分を明るくしようと部屋にあったレコードをかけるジミニー。
始まったのはダイナ・ショアの「ボンゴ」というミュージカルレコードだった。
サーカス団のくま【ボンゴ】の冒険の物語がミュージカルで展開される。
レコードが終わると悲しい顔をしていた人形とぬいぐるみは笑顔を取り戻した。
次にジミニーが見つけたのはパーティの招待状。
それは向かいの家で開催されている物だった。
早速パーティ中の家に移動したジミニー。
そこでは腹話術師のエドガーがショーを行っている真っ最中だった…。
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感想
他のオムニバスシリーズと比べると、今回は悪く言うと置きにいった、良くいうと安心して見れる、そんな作品です。
雰囲気も異文化テーマやカオストリップのような異端要素は無く、アメリカやイギリスを主にした実に安定したディズニーの空気感。
深みは無いですが一応しっかりと起承転結ストーリーのあるお話になっている上に、ミッキー達やジミニー等お馴染みのキャラクターも登場するので子供も比較的安心して観れる内容になっています。
ただし、やはりこの時期のディズニーの少し如何わしい雰囲気、トリッキーな演出は要所要所で垣間見れるのでトラウマ注意シーンもいくつかありますが。
メインとなる2作の中編に関しては正直凡作に毛が生えた程度だと思います。
ただ、トータルの長編作品として観ると個人的にはこの時代のディズニー作品の中では実はトップクラスに好きな1本なんですよね。
詳しくは↓以下↓で!
芯の通った明確なテーマ
悪く言うと惰性的なオムニバス長編を連発していたこの時期の作品群の中で、この作品が明確に他と違う部分は【終始一貫した明確な精神的テーマがある】という事。
この作品が公開されたのは終戦からまだ間もない1947年。まだまだ先行き不透明な混沌とした時代でした。
「ファン・アンド・ファンシー・フリー」というタイトルからわかる通り、この作品には【クヨクヨしないで前を向いて明るくいこう!】という非常に明確なディズニーからのメッセージがわかりやすく込められています。
これだけわかりやすくディズニーが精神的メッセージを作品に顕著に込めるのはかなり珍しいことだと自分は思っていて。
オープニングでジミニーが歌うミュージカルシーンがあるのですが、この「I'm a Happy-Go-Lucky Fellow」という曲がまさにいきなりこの映画のテーマを明確に語るんですよね。
「皆心配しすぎなんだ。新聞を見ても、皆があちこちで未来の心配ばかりをしている。なるようにしかならないのに。もっと気楽に陽気に生きればいいのに。」
「石橋は叩かない。転ばぬ先の杖はいらない。悩んだりしない。楽しければいい。」
といきなり陽気に歌うジミニーは、正直キャラちょっと違うよね?と思いながらも、珍しいディズニーの明確な意思とメッセージを強く感じる、かなりお気に入りのシーンです。
メインとなる「ボンゴ」と「ミッキーと豆の木」はかなり前から長編として制作が進んでいた2本なので、そういう直接的なメッセージはありません。だからそれなりに怖いシーンや暗いシーンもあるんです。
ただ終戦後、この形で公開しようとなった時に、明らかにディズニーは繋ぎのエピソードに明確な想いを込めました。
ジミニーは暗い顔をした人形を笑顔にするためレコードをかけ、エドガーバーゲンは腹話術ショーを1人の少女の為に全力で披露し、最後は豆の木でミッキーにやっつけられた巨人すらもメタギャグで救済します。
ここまで徹底して明確な精神的想いを込めたディズニー映画は個人的にはこの作品が初だと思うんですよね。
オムニバス作品でありながら、ここまでしっかり芯を通して観ている人にちゃんとそれが伝わる内容になってるのは本当に素晴らしいと思います。
もちろん自分は戦争は経験してないしこの時代には生きていません。
だから終戦後これを観てアメリカ人が実際にどう感じたかは知るよしもありません。
もしかしたら、反感の方が強かったのかもしれません。
でも個人的にはこの作品の圧倒的な陽のメッセージはとても好きです。
「さぁ切り替えよう!みんなで楽しくいこう!」
と訴えてるようで。
なんとなく気分が晴れない時は未だに見ちゃいますね。
そしてこの作品から始まったこの姿勢こそが、この後のディズニー作品に続く大きな根っこ、原点の一つになってると思うんです。
2つの中編作品
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