ディズニー映画語り くまのプーさん 完全保存版 | すきなものしか語れない

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元ディズニーシー長年単パサー。今はおもにディズニー映画中心に好きなものだけ勝手に語るつまらないブログです。Dヲタだった頃の記事は思い出として残してます。


はぃどぅもぉ。


さて、今回は2週目のディズニーアニメーション映画史時代は1970年代、ディズニーアニメーションスタジオのドル箱期とも言える時代へ。


この時代からディズニーの低予算・短期間でヒットを生み出そうとする所謂【ドル箱路線】が本格化し「ジャングル・ブック」「おしゃれキャット」は立て続けに成功を記録します。


圧倒的リーダーであったウォルトその兄ロイ他界も乗り越え残ったクリエイター達で生み出した「ロビン・フッド」も無事にヒット。


ウォルト無しでもスタジオの存在感クリエイティブパワー健在な事を証明したディズニーは、次作としてウォルトの置き土産を改めて形に残すべく1本のオムニバス作品を公開します。


(※当ブログは基本ネタバレありです。ご了承下さい。)


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  くまのプーさん 完全保存版

(原題:The Many Adventures of Winnie the Pooh)
1977年
監督
ウォルフガング・ライザーマン
ジョン・ラウンズベリー


データ


ウォルトディズニーアニメーションスタジオ22作目の長編アニメーション。


1949年「イカボードとトード氏」以来実に28年ぶりとなるディズニーのオムニバス長編アニメーション


原作はイギリスのA.Aミルンによって1926年に発表された有名児童小説作品


イギリスでは圧倒的認知度を誇っていた原作ですが当時アメリカではまだあまり知られておらず、それを踏まえたウォルトはいきなり長編として制作するのではなく、まず短編作品をいくつか作り順に公開することでプーという世界を少しずつ浸透させていく「積み上げ方式」を提唱します。

これにより…

プーさんとはちみつ(1966年)

プーさんと大あらし(1968年)

プーさんとティガー(1974年)

という3つの短編作品がまず公開されました。

2作目の制作途中ウォルトは他界してしまいましたが、残されたスタッフはウォルトを信じ積み上げ方式を続行

3本の短編じわじわとディズニープーさんの魅力を浸透させ、1977年満を持して公開された長編作品、それが「くまのプーさん 完全保存版」です。


上記の3エピソード1本にまとめ、そこに新たに制作した繋ぎのシーン物語を締めるエンディングシーン追加する形で制作されました。



日本では既存の3つの短編完全収録した作品という意味合いで「完全保存版」というタイトルがつけられています。

ウォルト「プーさんとはちみつ」「プーさんと大あらし」2エピソードの制作関与しており、それを収録した今作は厳密に言うと【ウォルトが携わった最後の長編アニメーション】という事になります。



ストーリーやキャラクターデザイン等、ディズニー作品の中では原作比較的忠実に作られている事で有名ではあるものの、各キャラクターの細かな性格描写ギャグや雰囲気のアメリカナイズ、さらにオリジナルキャラクターの追加等それなりの改変は行われています。



監督を務めたのはベテランアニメーション職人集団であるナイン・オールドメンのメンバーウォルフガング・ライザーマン

作中3つめのエピソード「プーさんとティガー」を中心にジョン・ラウンズベリーも監督として参加しています。



脚本とストーリーはケン・アンダーソンラリー・クレモンズヴァンス・ジェリー等当時の主力クリエイター達が担当。


音楽はホーンテッドマンションGrim Grinning Ghosts」生みの親としても知られる作曲家バディ・ベイカー


楽曲制作を担当したのは全編に渡り「メリー・ポピンズ」「イッツ・ア・スモールワールド」で名声を浴びたディズニーミュージックレジェンドシャーマン兄弟

これによりプーさんシリーズは彼らの大きな代表作の1つとなりました。


キャスティングは以下の通り…

プーさん役にスターリング・ホロウェイ

様々な役柄で多数の作品に多大な貢献をしたディズニーレジェンドです。

日本語版は八代駿さん。

能天気さが全面に出た、オリジナルとはまた趣の違う声質でありながら長年に渡ってプーを演じ続け日本における【プーさんの声】を世に広めてくれた方です。


ピグレット役のジョン・フィドラー

彼は実に役40年近くに渡りピグレットの声を専属で演じ続けました。

日本語版は小宮山清さん。


ティガー役にはポール・ウィンチェル

腹話術師やコメディアン等様々な才能を発揮しながらも長きに渡りティガー役を演じ続け、偶然にも上記のジョン・フィドラーが亡くなる前日に他界されました。

日本語版は玄田哲章さん。


ラビットユニウス・マシューズ

日本語版・龍田直樹さん。


イーヨー役をラルフ・ライト

今作のストーリーアーティストも務めているクリエイターですが、制作中イーヨー役にピッタリだと言う事で急遽抜擢。その後亡くなるギリギリまでイーヨーの専属声優を担当しました。

日本語版・石田太郎さん。


オウルを演じたのはハル・スミス

様々なディズニーキャラクターを演じていて、特に上記のプー役スターリング・ホロウェイの亡き後彼の代役を多く演じており、一時的にプー役を担当した事もあります。

日本語版は上田敏也さん。


約8年に渡る3つの短編のオムニバスな為、クリストファー・ロビン役は各エピソードでそれぞれ異なる3人の子役が演じています。


本シリーズでは重要な役割を担っているナレーター役にはセバスチャン・カボット

日本語版は青森伸さん。

最新作の「プーと大人になった僕」まで全てのプーさんシリーズのナレーター役専属で担当しています。



個性豊かな森のキャラクター達を当時を代表する実力派キャストが演じきり、それぞれの個性を見事に表現しました。



あくまでも既存の短編作品3つを集めたオムニバス作品、つまりリバイバル的要素の強い1本なので興行収入としては大きな物にはなりませんでした。

しかし、アカデミー受賞作品である「プーさんと大あらし」を筆頭に元々人気と評価の高い3作品が1つにまとまり、しかも1本の長編作品としてしっかりと完結したその内容、そして原作の重要なシーン新たにアニメ化したそのエンディング大きな反響を呼び、この後数多く作られる事になるディズニープーシリーズ全ての原点として現在でも世界中の人々に愛され続けている作品です。

「丁寧に作品を重ねればプーさんは世界的な人気者になる」というウォルトの読み通り、この作品をきっかけとした以降の多数のフランチャイズ作品によりプーさんシリーズはディズニーで屈指の爆発的な人気を獲得。

グッズ、アトラクション、各種メディアミックス等その勢いはとどまる事を知らず各国で無数の展開がなされ、今やミッキー・マウスに並ぶディズニーの代表的なキャラクターとしてその立ち位置を完全に確立
文字通り世界中の人々に愛される唯一無二の存在へ成長を遂げました。


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あらすじ



ここに一冊の本がある。

それは、クリストファー・ロビンという幼い少年が想い描く空想の中の世界を描いた本。

本のページが開くと、そこにはクリストファー・ロビンとその親友達が不思議で楽しい物語を紡ぐ場所、100エーカー森の世界が広がっていた。


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感想





いやぁもうこれはね、今まで何度観たかわかりません。多分人生で一番観た映画ですね。

おときちがディズニーに興味を持つ大きなきっかけとなった大切な作品

とてもじゃないですが他の作品のように冷静には語れないので、今回はなるべく端的にその魅力だけ綴りたいと思います。

先に言っておきますが、1本のディズニー長編アニメーション作品として観ると今作はとても傑作と言える作品ではありません

既存の作品をリサイクルしたオムニバスなのでそれに伴って作中の作画やデザインもシーンによってバラバラですし、特にキャラ作画は1つのキャラクターを何人ものアニメーターで描いてるのがバレバレなくらい継ぎ接ぎ感があります。

ストーリー映画としてもとても単調で大きな山もなくメインターゲットのはずの子供達が眠くなる程です。


それではこの作品の魅力はいったい何なのでしょうか?



プーさんの魅力とは?




まず最初に言っておきたい大前提が、このプーという物語は全てクリストファー・ロビンという少年が創り出した空想上の出来事であるということ。

それを父親が本にしたのが「くまのプーさん」という作品である事。

クリストファーという人物も、プーというくまのぬいぐるみも実在しています。
自分の息子がお気に入りのくまのぬいぐるみと所謂ごっこ遊びをする様子をミルンが本にした、それがプーさんのはじまりです。

つまりこの作品は事実からインスパイアされたフィクションなんです。

この「完全保存版」はまず、その作品のアイデンティティを表現する事、そしてプーという世界の魅力を沢山の人々に浸透するように翻訳して届ける事、この2つ完全に注力した作品と言えます。

子供部屋の本を開く冒頭シーン。

「クリストファーロビンが動物達と遊ぶ、子供のゆめ。」という歌詞で始まるシャーマン兄弟の手掛けた素晴らしいテーマソング

本のページをめくりながら、挿絵のプー達が動き出し物語を紡いでいくという展開。

これはあくまで本の中の世界なんだということを最後まで強調する為の数々の演出

さらに、子供が思いつく・もしくはやりがちな範疇の言葉や文字の言い間違い勘違いを巧みに使ったシュールなギャグ

時折挟まれる哲学的なセリフ


そして、プーという世界を語るうえで絶対に外すことのできない【核】となる重要なラストシーン

ストーリー映画としての質よりもプーの世界を伝える事一番の目的として作られているんです。


そしてそんなプーという作品の最も大きなテーマと魅力とは何なのか。


のんびりとした純粋で愛らしいキャラクター。
時折挟まれる哲学的要素
それらももちろん大きな魅力ではありますがあくまでそれは表面上の物。



この作品の本質、それは【童心】です。


ロビンにとってプー子供時代の、つまり童心の象徴なんです。

プーさん達にとってロビン謂わば創造主でもあり、自分達の一部なんです。 

誰の心の中にも童心、そして純粋さはあります。どんなに大人になり汚れたとしても心のどこかに残っています。

それを少しだけ呼び起こしてくれる。

それがプーさんという作品です。

このプーという作品のとなる魅力深く理解し、アニメーションに落とし込もうとしたのがこの「完全保存版」です。

前述の通り1本のディズニー作品としてはイマイチな部分も多いです。
だけどそれを犠牲にしてでもこのプーという世界の魅力を伝えようとしたこの作品は、やはり特別であり唯一無二だと思います。

この後数多くのシリーズ作品が作られるプーさんてすが、この点をしっかり描きこんでいるのは数ある作品の中でこの完全保存版を含め数作しかありませんし、その核の部分をしっかり引き継いだ最新作の続編「大人になった僕」直接的に繋がっていきます。

他の作品を見るうえでも、この核の部分を理解してるかしてないかでこのシリーズ全体の感じ方が全く変わってくるのです。

なので、どうしても絶対にプーさんシリーズに手を出すならまずこの作品からマストで観てほしいのです。

本当に、全く違う作品を観るくらいに観え方が180度変わりますので。


※ちなみにプーピグレットティガー等は実際にクリストファーが所持していたぬいぐるみですが、ラビットオウルはそうではなくリアルな動物として空想されています。
カンガとルーは後から貰った親子ペアのぬいぐるみです。
これは原作の時点からの設定ですし、この完全保存版でもそのぬいぐるみと動物の違いは、さりげなくですがちゃんと描かれています。
そしてこの前提を理解していると、後の名作ティガー・ムービープーと大人になった僕等の味わい方が一味も二味も変わってきます。


絶妙なスパイス




そしてこの作品で忘れてはならないのが、イギリス原作のこの作品とキャラクターの魅力をアメリカはじめ世界中に浸透させる為にディズニーが行ったいくつかの工夫

その大きな1つディズニーオリジナルキャラクターである地リス・ゴーファーの追加です。

のんびりしたイギリスの雰囲気の中にディズニーが放り込んだ、製作者曰く「唯一のアメリカ的なキャラクター」

わんわん物語ビーバーに良く似ていて、大きな前歯をスースーさせながら大声と早口でまくし立てるように喋り自らを「原作には出てねぇけど」と自虐。
喋るだけ喋ったあと自分の掘った穴に落ちることで一瞬でフェードアウトしていきます。

このゴーファーの存在は非常に賛否両論で、結局後々の正統派続編にはほとんど登場しなくなってしまうのですが、個人的には大好きで、彼の登場は大正解だったと思います。

特に最初のエピソードでは、ピグレットティガー等賑やかな仲間達がまだ登場しない為、非常に穏やかな(ともすると退屈な)展開が続くのですがその中で、ゴーファーとオウルの少しブラックユーモアチックな掛け合いシーンが文字通り良いスパイスになっているのです。

後にゴーファーは、プーの世界を徹底的にアメリカナイズする事で成功したテレビシリーズ「新くまのプーさん」大活躍する事になります。

それともう1つがこちらのシーン。


プー達がゾウとイタチを言い間違えた事から生まれた架空の怪物ズオウとヒイタチ

そんな怪物にハチミツを奪われるプーの夢を描いたミュージカル「ダンボ」のピンクの象を思わせるサイケデリックなシーンとして、作中でも異彩を放っています。

シャーマン兄弟が手掛けた不気味ながらもクセになる楽曲もインパクト抜群です。

全体に原作の雰囲気を大切にしたスローリーな作風の中でディズニーが行った最も主張の強い味付けであり、あまりにも作品から浮きすぎていて公開時は賛否両論ありましたが同時にシーンとしては高い評価を獲得しており、該当シーンが登場する「プーさんの大あらし」アカデミー賞を受賞

現在では作品を代表するミュージカルシーンとして高い認知度と人気を誇っています。

これらのディズニーのアプローチが、1つの作品としてより世界に受け入れられる間口を広げている事は間違いありません。

つくづく、ウォルトクリエイター達がこのプーという作品を世界的なモノにする為にホントに数々の努力と試みを行っていることがよくわかります。

原作の空気感アメリカンアニメーション映画としての面白さ、その双方をギリギリのところで両立させているのが見事です。


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まとめ




重ねてはなりますが、ディズニーの長編アニメーションとしては傑作とはとても言えない作品ではあります。

しかしながら作品の質や格を多少犠牲にしたとしてもプーというコンテンツを【世界中で愛されるキャラクターにする】というウォルトの志とそれに応えたクリエイター達の努力結晶であり、そういう意味ではまさに制作側が思い描いた通りの見事な1本であると言えます。

そしてそのウォルトの目的は、その後の様々なフランチャイズ作品によるシリーズ化もあり、長い年月を経て正に見事に達成されました。

現在でもプーさんは、押しも押されぬディズニーの看板キャラクターとして世界中に愛され続けています。

その原点が正にこの作品なんです。

原作の雰囲気と趣旨をしっかりと引き継ぎながら、音楽やキャラの色付けディズニーのやり方でプーの魅力的な純粋無垢な空想世界見事なバランスで表現しています。

1つのストーリー映画としては決して面白いものではないかもしれませんが、誰もが持っているそれぞれの子供心に直接語りかける本当に素敵な作品です。

プーさんは知ってるけど映画は観たことない…という方は本当に勿体ないので、ぜひこの作品だけでもチェックしてみて下さい。


そして気に入って頂けたら、その精神を見事に受け継いだ最新作「プーと大人になった僕」も是非ご覧頂けたら幸いですね。




「くまのプーさん 完全保存版」は現在ディズニープラスで配信中です♪



はい。


というわけで今回はこの辺で!



今回も長文駄文にお付き合い頂きありがとうございました♪


しーゆーねくすとたぁいむー。