今年もインフルエンザの全国的な流行が始まっていますが、妊娠中のインフルエンザワクチンの接種はどうしたらよいでしょうか。

インフルエンザワクチンは、乳幼児や高齢者、また基礎疾患のある方に勧められますが、これらの方々は重症化しやすく、肺炎などを併発すると死亡するリスクがあるためであり、接種後に発症しても重症化が予防されるため、ワクチンの接種が勧められます。

実は妊婦さんも同様に重症化しやすいことが分かっており、ワクチンの危険性も低いため米国においては全ての妊娠期間でワクチンの接種が推奨されています。

また、妊娠中にワクチンを接種することで、おそらく抗体が胎児に移行するため、ワクチンを接種できない期間である生後6か月までの乳児の発症率も下がります。

きょうだい児の発症も予防されることが分かっており、これらより当院では希望する妊婦さんにすべての期間でワクチン接種を行っています。

 

抗インフルエンザウイルス薬はタミフル、リレンザ、イナビルは各学会で安全とされ、重症化を予防する効果があり妊娠中も使用可能です。

新薬のゾフルーザに関しては妊娠中の情報が少なく、安全かどうかはまだ不明です。今後情報が入りましたら改変を行います。

 

 

出産前後のお母さんの死亡原因で最も多いのは自殺という結果があります。

特に産後うつがその要因ではないかと言われています。

これはお母さんに原因があるわけでなく、赤ちゃんが生まれた後、身体的、社会的に大きく変化してしまうことが原因です。

重症の産後うつになってしまい、自分で死ぬことを選択してしまうリスクは皆さんにあります。

早期介入で最悪の事態を防ぐことができることから、メンタルヘルスケアへの取り組みは全国の自治体でもされており、市町村によりますが、高知市では赤ちゃん訪問の中で質問紙を用いリスクの高い方をスクリーニングするようになっています。

当院でも同様の質問紙への記入のお願いを行っています。これは、お産が終わり産婦人科を卒業されるお母さんへの切れ目ない支援を続けていくためです。必要に応じ、地域の保健師さんや重症な場合には精神科との連携を行い、出産して終わりではなく、その後の生活についても地域を通して支援できればと思っています。

風疹は感染力が高く、同じ部屋にいるだけでも感染が起こるとされています。

しかも発疹(ぶつぶつ)などが出現し風疹と診断される1週間前から感染力があるため、感染に気がつかず次から次へと感染を広げてしまう可能性があります。

 

ワクチンの接種が適切な予防法ですが、過去の風疹ワクチンは女性のみの接種でした。特に30-50代の男性は風疹に罹患したことのない方も多くいらっしゃるため、現在の流行の主体となっています。2012年も同様の世代が流行源となり、1万6千人超が発症しました。

妊娠20週未満の妊婦さんから胎児へと感染することで、残念なことに白内障や聴力障害などをきたす先天性風疹症候群を発症してしまった方もその際に45人報告されました。

 

妊娠初期検査として、風疹の抗体が十分あるか検査を行っていますが、抗体が十分にない妊婦さんは、妊娠中にワクチンが使えないため避けるしかありません。

 

家族に妊婦さんがいる家庭のみならず、思わぬところで感染源とならないためにも、風疹にかかったことがない30-50代の男性はワクチン接種が勧められます。

サイトメガロウイルス感染症は、小児期にかかることが多いもので、小児の場合にはほとんどは不顕性感染、つまり無症状です。

思春期以降に感染すると、発熱、肝機能異常の他にも、首のリンパ節の腫脹などを認めることがありますが、無症状で経過する場合も多いです。

以前は、9割以上が小児期に感染するためあまり問題となりませんでしたが、現在は衛生面での進歩が、逆に感染を遅らせる結果となっています。近年の働き方の変化により、託児所や保育園へ入所する方が増えており、今のお母さん方の年齢より、現在の子供たちの方が感染率は上昇している可能性もあります。

抵抗力のない妊婦さんへの子供たちを介した感染による胎児サイトメガロウイルス感染が問題となっています。

低出生体重、聴力、視力障害や知能障害など多彩な後遺症を残す可能性がある重篤な状態ですが、ワクチンもないため、感染の予防のみで防がなければいけません。

家庭内感染が多く、感染児は尿や鼻水などの体液に数年間ウイルスを排出するため、特に2人目以降の妊娠で注意する必要があります。おむつや食事介助、鼻水やよだれを拭いた後には石鹸と水とで20秒程度の手洗いをしっかり行ってください。また、子供の食べ残しは食べないようにしてください。

妊娠中は、妊娠に伴うホルモンの変化などで、もともと頭痛がある方も、ない方も頭痛を訴えられる方が多くいらっしゃいます。

 

しかし妊娠中の薬の処方は胎児への影響があるため、通常副作用を起こさない薬でも、胎児への悪影響を考慮した処方が必要となります。妊娠中以外でよく処方される、イブプロフェンやロキソプロフェンなどのNSAIDsとよばれる鎮痛剤は、胎児に必要な動脈管という血管を閉めるため禁忌となっています。

 

風邪薬などに使用されるアセトアミノフェンは、古くから使用されておりガイドラインにも安全として掲載されていますが、ここ数年で発表された研究で、長期投与による児のADHD(注意欠陥多動性障害)や、言語獲得の遅れとの関係が示唆されており、現在安全性について研究が進められている状態です。

 

頭痛への当院の対応としては漢方薬などで改善されるかたもおります。

妊婦さんの頭痛は大きく私が考えるに4種類あり、①片頭痛、②肩こり頭痛、③気圧変動、水分やホルモンバランスによる頭痛、④脳内の疾患による頭痛

 

頭痛で怖いのは④が疑われる場合。専門の病院へ紹介させていただくこともあります。

 

①に呉茱萸湯、②に葛根湯、③に五苓散を使用するとより良いです。明確に区分できないこともあり、組み合わせて処方させていただいています。

妊娠は思いがけず訪れることが多いものですが、できれば準備をしておくに越したことはありません。

例えば風疹は赤ちゃんに難聴などをきたす先天性風疹症候群をおこしますが、妊娠したことが分かってからではワクチンの接種はできず、ただ感染しないことを祈りながら人込みを避けて生活を送る必要があります。

そこで妊娠を考える前に、検査をしておくという考えがあります。

先ほどの風疹であれば、ある程度の抵抗力を持っていれば妊娠中に感染することはありません。抵抗力は抗体価として調べることができ、妊娠を考えているワクチンの接種歴が不明な方であれば、高知市にお住まいの方は現在公費で無料の検査が可能です。

他にも当院での妊娠前検査としては感染症の検査や、細菌性腟症など早産をきたす疾患の検査、流産の原因となる甲状腺機能異常の検査や子宮がん検診などを行っています。

無症状の方は自費検査となりますが、当院では2万円程度でそれらの項目が検査可能です。

妊娠中に食べてはいけないものを挙げてみます。

 

①マグロ・キンメダイなど大型魚には、水銀が含まれるため、例えばメバチマグロは1週間で刺身1人前(約80g)までとしなくてはいけません。詳しくは厚生労働省のホームページで「妊娠・水銀」で検索しご確認ください。

ビンチョウ(ビンナガ)マグロは大丈夫です。

 

②ナチュラルチーズ:自家性や輸入されたものはリステリア菌に汚染されている可能性があり、妊娠中の感染により重症の感染症となります。胎児死亡となる可能性もあります。海外ではスモークサーモンや生ハム、サラダなどからも検出されています。

 

③牛、豚、羊、鹿などの生肉や、猫が接触した食材はトキソプラズマを含む可能性があります。生ハムやローストビーフなども危険です。牛は従来比較的安全とされていましたが、日本の研究で豚同様の感染頻度だったとの報告もあります。

 

④子供の食べ残し:保育園などで症状なく感染したサイトメガロウィルスが含まれている可能性が高いです。子供の体液が触れた食材は食べないようにしてください。

 

食べてしまって心配!という方も、これらの結果はほとんどは影響を与えません。食べた後消化される過程で殺菌されたり、サイトメガロウィルスはもともと抗体を持っている人が多いからです。しかし、低い確率で問題を起こしてしまう可能性もありうるので、例えば少し時間をおいてトキソプラズマ、サイトメガロなどは採血で確認する方法があります。

水銀、リステリアに関しては直接の検査は難しいです。