異色の甲子園投手 ─『スローカーブを、もう一球』(山際淳司)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

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 『スローカーブを、もう一球』は、スポーツライター・山際淳司さんの描いた、ノンフィクション短篇集。

 今日は、その中から表題作「スローカーブを、もう一球」を紹介します。

 

 川端俊介は、進学校である茨城県立高崎高校のエース。甲子園とは無縁と思われたこの高校を甲子園に導いたのが彼でした。しかし、私たちのイメージする「甲子園投手」とは、少々異なっています。武器はスローカーブ。まるで子どもが投げるような山なりの球。この球で打者を惑わせます。

 

《ピンチになれば…》と川端俊介は言った。

《逃げればいいんです》

 

彼は人生もスローカーブのように、なだらかに曲線的に渡っていきたいと思っている人間だった。

 

《かわしていれば、いつかチャンスはまわってくるもんですよ》

 

 (山際淳司、『スローカーブを、もう一球』より)

 

 「ゆらゆらと本塁に向かっていくボールがまるで自分のように思え、妙に好きになれるのだった」という川端投手。剛速球で打者をばったばったとなぎ倒すのではない。甲子園のアイドルになるような選手でもない。でも、こういう生き方もあっていいんだ、という安心感を与えてくれるところが、彼の魅力になっているように感じます。