自分の音を好きになりたいな ─『発達障害のピアニストからの手紙』(野田あすか)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 『のだめカンタービレ』の“のだめ”。『蜜蜂と遠雷』の“風間塵”。漫画や小説の中には、時に個性で他を圧倒する魅力を発するピアニストがいます。

 それを実在の人物に当てれば、こういう人なのでしょうか。野田あすかさん。発達障害のあるピアニスト。本の帯に載せられている写真が、“のだめ”を彷彿とさせます。

 

 野田さんは、自分の気持ちがすぐに音に出てしまうので、「その曲の音」を出さなければならないコンクールでは、いい結果を残せなかったそうです。それに悩んだ野田さんは、ピアノの先生に尋ねました。

 

「自分の気持ちがそのまま音に出てしまうというのは、いいことなんですか、だめなことなんですか?」

 すると先生はこう言ってくれたのです。

「いいことか、だめなことかは、先生にはわかりません。その場、その場で違うと思います。でも、そんなあすかさんの音を、先生はきらいではありません」

 (野田あすか・福徳・恭子、『発達障害のピアニストからの手紙』より)

 

 自分の音を自分の音として認めてくれたことが、野田さんの大きな支えになったそうです。

 

 文学も、音楽も、作品自体に客観的に決められたよさがあるのではなくて、読んだ人、聴いた人が感じたことの中によさがあるのだと思います。「自分の音が好きだな」「本を読んで自分の感じたことを大切にしたいな」という思いが、本や音楽を楽しむ基盤になるのでしょう。