神様よりも人間のほうが、ずっと優しい ─『その日のまえに』(重松清)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

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「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 重松清さんの『その日のまえに』を読みました。

 「その日」とは、「僕」が最愛の妻・和美を失ってしまう日のことです。

 

 和美は、二人の子どもを残して、ガンで亡くなってしまいました。

 お別れの病室で、義父が「僕」に語りかける場面が印象的でした。

 

「雨になったのう・・・」

 神様は最後の最後まで、和美には意地悪のしどおしだった。

 そうですか、とうなずくと、義父は見る間に目に涙を浮かべながら、つづけた。

「・・・じょうぶな子に産んでやれんで、すまんかった」

 神様よりも人間のほうが、ずっと優しい。

 神様は涙を流すのだろうか。

 涙を流してしまう人間の気持ちを、神様はほんとうにわかってくれているのだろうか。

 (重松清、『その日の前に』より)

 

 私も時には神に祈ります。物事が偶然のようにうまく運び、神様に感謝したくなるようなこともあります。

 でも、苦しいときに、とても解決のしようもないのだけれど、同じように苦しみながら心を届けてくれるのは、やっぱりすぐ近くにいる人間だと思います。