究極の日常的人生 ─『三題噺』(加藤周一)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 石川丈山は、安土桃山時代から江戸時代に生きた漢詩人です。

 京都の静閑な山荘、詩仙堂で一人過ごした丈山。

 丈山は、平凡な日常の小さな歓びを、人生でいちばん貴重なものと考えていました。

 

 『三題噺』の一話、「詩仙堂志」の中で、ある老人が丈山について語る場面があります。

「丈山のたのしみは詩をつくることそのことのなかにあった、できあがった詩はどうでもよかった、誰がよんでもよまなくてもよかった、読者は要らない・・・」

 

 丈山の日常については─。

「みずから茶をたててみずから飲む、みずから詩をつくりみずから読む、みずから庭を掃いてみずから眺める。」

 (加藤周一、『三題噺』より)

 

 極限の孤独の中で、まるで自然の一部と化してしまったような日常。邪念など浮かぶ余地もない澄んだ空間と時間。

 丈山のようにはとてもなれませんが、京都の詩仙堂を訪れ、その極地の一端でも味わえれば・・・と思わされた物語でした。