30年前に大好きだった詩 ─『Balance』(銀色夏生)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

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「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

先日の記事に、なおりんさんからコメントをいただいて、

銀色夏生さんの話題になって、

そうしたら無性になつかしくなって、

本棚の一角から大好きだった詩を探しました。

もう30年も前の本たち。

どの本にあの詩があったのかも覚えてなく、それでもやっと見つけました。

 

 

「いつもいつも次に来る季節が好きだ」

 

好きな色は何、と聞かれて返事に困った。

行きたい場所はどこ、と聞かれて、わからなかった。

すぐに返事ができないことが多くて、優柔不断だと落ち込んだ。

でも、好きな色がないのではなくて、好きな色という質問が、うまく理解できなかったのだ。

好きな空の色ならうすい青だし、好きな服の色なら白。好きな地面の色は草原の緑。

好きな水の色は透明。嫌いな色があるのではなく、嫌いな組み合わせがあるだけ。

行きたいのは、国ならアイルランド。夕方なら海。星ならオリオン座。夢なら恋人。

なりたいのは、考古学者。なりたいのは、やさしい人。なりたいのは、テニスの試合でアドバンテージをとれる人。なりたいのは、海の近くに住む人。なりたいのは・・・・・・。

 

いつも、次の角を曲がったところで、もっと素晴らしい出来事に会えるような気がしてる。

明日になれば。次の休みは。これから出会う友だちは。来週は。こんど買う服は。この次の試験は。次の恋は。

だから、

季節といえばいつもいつも、次に来る季節がいちばん好きだ。

 (銀色夏生、『Balance』より)