最後のおしゃべり ─『さよならは小さい声で』(松浦弥太郎)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

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日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 数日前にリブログした葉菜さんの記事に、『さよならは小さい声で』(松浦弥太郎)が紹介されていました(葉菜さんのブログはこちら)。即注文し、読了しました。

 

 この本の中に、「母との最後のおしゃべり」というエッセイが載せられていました。

 喉頭がんの宣告を受けた母との、手術前の1日の最後のおしゃべり。

 

 亡くなった祖母が若い頃、とてもきれいで男にもて過ぎて困ったこと、父と初めて会った日のこと、子供が生まれる前に飼っていた犬のこと、ぼくら子どもを預けて夫婦で出かけた旅行のことなど、ひとしきり話した後、母は─

 

 「もう遅いから帰っていいよ」と言って、自分勝手におしゃべりを終えた。

 

 

 もう声を聞くことができなくなるのが分かっていて、それでも過ぎていく時を止めることのできない最後の瞬間って、どんな気持ちなんだろう。もう息子に声を届けてやれない、最後の言葉を発する時の母の気持ちって、どんな気持ちなんだろう。

 

 1日の様子が淡々と描かれているだけなのに、たくさんの思いが呼び起こされました。

 

 『さよならは小さい声で』は、郷愁を誘うような、やっぱりきれいな本でした。