終戦記念日に ─『ちいちゃんのかげおくり』(あまんきみこ)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 「かげおくりのよくできそうな空だなあ。」

 お父さんが出征する前の日、ちいちゃんとお父さん、お母さん、お兄ちゃんは、4人で「かげおくり」をして遊びました。晴れた日に、かげぼうしをじっと見つめ、空を見上げて、かげぼうしを空に写す遊びです。

 

「すごうい。」

とお兄ちゃんが言いました。

「すごうい。」

と、ちいちゃんも言いました。

「今日の記念写真だなあ。」

と、お父さんが言いました。

「大きな記念写真だこと。」

と、お母さんが言いました。

 

 しかし、そのうち、戦争はしだいに激しくなり、空襲ではぐれたちいちゃんは、ひとりぼっちになってしまいました。広い空は、楽しい所ではなく、とてもこわい所に変わってしまいました─。

 

(あまんきみこ、『ちいちゃんのかげおくり』より

 

 戦時中に、家族で味わうことのできた、ほんの小さな楽しみ、「かげおくり」。

 その楽しみさえも、戦争が奪います。

 そして、もう一度だけ、「かげおくり」のできるその幸せに包まれたとき、ちいちゃんは、お空の上にいる家族のもとへ召されていきます。

 

 か弱いちいちゃんの姿が、戦争の哀しさを強く訴えかけてきます。