美しい時間と出会う物語 ─『ファウスト』(ゲーテ)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 世界の根源を極めようとする学者・ファウスト。彼は、悪魔メフィストーフェレスと契約を結びます。それは、己(おれ)がある刹那に向かって、「とまれ、お前はあまりにも美しい」(時よ、止まれ)と言ったら、己はお前に魂を受け渡す、と言うものです。

 少女に恋をし、享楽を手にし、美を得て・・・。様々な体験をした彼が最後に得たのは、人間の叡智の、最高の結論でした。

 

子供も大人も老人も、まめやかな歳月を送り迎えるのだ。

己は自由な土地の上に、自由な民とともに生きたい。

そういう瞬間に向って、己は呼びかけたい、

「とまれ、お前はいかにも美しい」と。

 (ゲーテ、『ファウスト 第二部』より)

 

「とまれ、お前は美しい」、禁句を発したファウストですが、天使により救われます。

天使たちは歌います。

「絶えず努力して励む者を、われらは救うことができる」と。

 

ゲーテの描いた『ファウスト』は、この大団円で終わります。

 

しかし、もう一つ、悲劇的な「ファウスト」も存在します。

そのことについて、また次回で。