ありのまま ─『本所おけら長屋(十)』(畠山健二)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 おけら長屋に住む金太は、知的障害があります。万造と松吉は、一見、金太をからかったり馬鹿にしたりししているように見えます。それでも決して見放しません。『本所おけら長屋』を読んでいると、彼らは心の底でつながっていることがだんだんと見えてきます。

 

「口ではひどいことを言いながら、いつも金太さんを仲間に入れている。万造さんや松吉さんを悪く言う人たちに、そんなまねができるかな。おそらくできんだろう。悪口を言わないことと引き換えに、関わりを持たなくしようとするだけだ。」

 (畠山健二、『本所おけら長屋(十)』より)

 

 腫れ物に触るように接するのではなく、ありのままの金太さんにそのまま接する。万造や松吉は、頭で考えてそうしているのではないのでしょう。何が大事かを体で知っている。人情の世界を地で生きている。そんなところがいかにも粋な江戸っ子です。