笑って ─『本所おけら長屋(九)』(畠山健二)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 文七は、大工の親方。しかし、大きな仕事で謂われのない難癖を付けられて落ち込みます。心配するお糸に、お染は言います。

「何もしなくていいのさ。何が起ころうが、いつもみたいに笑って、いつもみたいにご飯を作って。それでいいんだよ」

 

 お染の言葉を信じ、文七に笑顔を見せるお糸。その笑った顔に、文七も自ずと笑顔になります。

 

 お糸は、文七の笑う顔を見たのは久し振りだ。お染は「いつもみたいに笑って、いつもみたいにご飯を作れ」と言った。その通りにしたら、文七も笑った。世の中は、そんな容易(たやす)いものなのかもしれない。

 (畠山健二、『本所おけら長屋(九)』より)

 

 笑顔は、その人の強さです。人を幸せにする力があります。

 『本所おけら長屋』の笑いも、明日を頑張る力を与えてくれます。