気付かないやさしさがある ─『本所おけら長屋(八)』(畠山健二)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 大工の銀平は、仕事もせずに真昼間から酒を呑み、博打を打ち、借金をこしらえ…。

 あきれた女房のお利は、子供を連れて家を出て行きます。

 「お利が男を作って出て行った」「自分は捨てられた」と思い込んだ銀平は、自暴自棄になり、犯罪に手を染めようとします。

 

 そんな銀平に、近所の煮物屋のおけい婆さんは語りかけます。

 

「お利さんはねえ、あたしの屋台で煮物を買うときには、最後に必ずこう言うんだ。

 《おけい婆さん、その煮豆をくださいな。うちの人が好きだから》

 お前さんには、そんなお利さんの気持ちが通じなかったみたいだね」

 (畠山健二、『本所おけら長屋(八)』より)

 

 いつも一緒にいても、気付かないやさしさがある。

 その気付かないやさしさがあることに、気付かせてくれたお話でした。