誰でも心の中に重い荷物を抱えています。その荷物に潰されるか、肥やしとして生きていけるかは、「自分次第」だという万造と松吉に対し、お熊ばあさんは言います。
「違うさ。大切なのはまわりの人たちさ。自分ができるのは、せいぜい心の中の荷物の紐を解くところまでだね。その荷物を心の中から取り出してやるのは、まわりの人の仕事なんだよ。だから人は、人とつながって生きていくのさ」
(畠山健二、『本所おけら長屋(五)』より)
このお熊ばあさんも、十の頃から心の中に重い荷物を背負って生きてきたのでした。だから、9歳になる直吉という男の子を救い、「重い荷物を心に背負っていくのは辛いからねえ」という言葉を残して死んでいきます。お熊ばあさんも、「粋」な人です。
粋な人たちが集まり、お節介を焼き合いながら生きていく「おけら長屋」。人とつながって生きていく楽しさをしみじみと感じます。