久蔵は、妻・お梅と生まれたばかりの亀吉を喜ばそうと思う余り、金や出世に目がくらんでしまいます。挙げ句の果てに人の道を踏み外しそうになる久蔵に、万造と松吉が語りかけます。
「おめえがするべきことは、できる限り、お梅ちゃんと亀吉の側にいてやることじゃねえのか。お梅ちゃんの手を握ってやることじゃねえのか。亀吉の寝顔を見守ってやることじゃねえのか」
万造の目にも涙が溢れてきた。
「万ちゃんの言う通りだなあ。・・・久蔵、所帯を持って気負うおめえの気持ちはわかる。お店で認められてえ、金もほしいって思うのも当然だろう。だがな、お梅ちゃんは、そんなこと望んじゃいねえんだよ。親子三人が仲良く助け合って暮らしていけりゃ満足なんでえ」
しばらくは、部屋の中に久蔵の啜り泣く声だけが響いていた。
(畠山健二、『本所おけら長屋(三)』より)
家族として本当に大切なことは何か。酒や賭け事が大好きで、いつも騒動ばかり起こす万造と松吉の言葉だからこそ、よけいに心に響きます。人として大切なことは、学でも金でも名誉でもないということを万松コンビが教えてくれます。 笑いあり涙ありの落語の味わいたっぷりです。