音楽の神様が愛した ─『蜜蜂と遠雷』(恩田陸)その3─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 努力とか技術とかでどうこうできるものではない、その人の人間性あるいは音楽性とでもいうべきもの。奏者の奥深いところから紡ぎ出される音楽。少年・風間塵の演奏もそういうものでした。

 

 愛されている。

 亜夜が少年の顔を初めて見たとき、頭に浮かんだのはその言葉だった。

 この子は、音楽の神様に愛されているんだ。

(恩田陸、『蜜蜂と遠雷』より)

 

 音楽を愛する人は、大勢います。

 でも、音楽に愛された人は、おそらく本の一握り。うらやましい限りです。

 

 ずいぶん前にシンガーソングライター・矢野顕子さんが、「ピアノが愛した女」というキャッチコピーで紹介されていました。あまりにも楽しそうに弾き歌う矢野顕子さんを見ていると、きっと風間塵もこんな感じの演奏者なのだろうと想像が膨らみます。