おばあちゃん ─『蜜蜂と遠雷』(恩田陸)その2─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 芳ヶ江国際ピアノコンクールを巡る演奏家たちの物語。

 育ちも音楽に対する思いも違う人たちが語る言葉なのに、どれも私の中にある音楽への思いに、どこかで重なります。そんな言葉を取り上げるブログの第2回目。

 

 楽器店に勤務する高島明石は、仕事の合間をぬって練習を重ね、プロとは違う、生活者である自分にしかできない音楽を追求しています。

 その明石が、幼い頃を振り返っての言葉。

 

 明石は、蔵の隅に置いてある、背もたれのない小さな木の椅子に目をやった。祖母は、あの上にいつもちょこんと正座して、ぴんと背骨を伸ばし、孫の弾くピアノを聴いていたのだ。

 明石の出す音は優しいねえ。お蚕さんも、明石のピアノが好きみたいや。

  (恩田陸、『蜜蜂と遠雷』より)

 

 

 私の母方の祖母は、目が見えませんでした。

 私が子どもの頃、ピアノを弾いていると、祖母は私の邪魔をしないように、そっと隣の部屋の椅子に座り、ずっと私の弾く音楽を聴いてくれていました。

 私がピアノの部屋から出ると、祖母は、「ゆうちゃんのピアノはうまいなあ。前、テレビで聴いたピアノよりずっとうまい。」と言ってくれたものでした。祖母の欲目とは分かりつつも、目が見えないぶん、きっと普通の人より音に敏感なはずの祖母の言葉は、ずっと私を支えてくれました。

 

 祖母が亡くなってもう25年経ちます。

 それでも、ピアノを弾いていると、時々、「おばあちゃんに聴いてほしいなあ。」と、子どもの頃を思い出します。