時を経て… ─「泣くな赤鬼」(重松清)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

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「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 朝、点けっ放しにしていたテレビから「『泣くな赤鬼』・・・ロードショー・・・」という声が聞こえてきました。

   あ、重松清さんだ・・・

 以前読んだ小説を思い出しました。

 『泣くな赤鬼』。赤鬼と呼ばれていた熱血野球部監督と、それについて行けず、野球をやめ、高校を中退し、道を踏み外してしまった生徒・斎藤の話。

 

 10年後、赤鬼と斎藤は病院で出会います。結婚し、赤ちゃんも生まれ、幸せになるはずの斎藤の余命は長くはありませんでした。

 斎藤はつぶやきます。

「ほんと……ほめられるようなこと、なにもなかったけど……惜しいところは、けっこうあったような気がするんだけどな、俺……」

 

 赤鬼は、才能がありながらくすぶっていった斎藤をよくは思っていませんでした。でも、自分の知らないところで、ちゃんと大人になっていた彼を見て、赤鬼の心も変わっていきます。

 

 結末は語りません。

 心に残った言葉だけお伝えします。

 赤鬼が斎藤に語りかけた言葉。

 

 もしも奇跡が起きて、人生の残り時間がうんと増えるのなら、おまえは教師になれ。私がおまえに言ってやれなかった「惜しい」の一言を、おまえのような生徒に何度でも贈ってやってくれ。

 (重松清、『泣くな赤鬼』(『せんせい。』収録)より)