『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい 経済の話。』
本当に「とんでもなくわかりやすい」のか半信半疑だったのですが、冒頭部分を立ち読みし、小さい頃から親戚のおさがりばかりで我慢させてきた娘が思い浮かび、即購入を決めました。
赤ちゃんはみんな裸で生まれてくる。でも、高級ブティックで買った素敵な肌着を着せてもらえる赤ちゃんがいる一方で、多くの赤ちゃんはボロを着せられる。
少し大きくなると、親戚や名付け親がいやになるほど洋服をプレゼントしてくれて、うんざりする子どももいる。金持ちの子は、「本当は別のものが欲しかったのに」なんて思ってしまう。たとえば最新のiPhoneとか。でも一方で、穴の開いていない靴を履いて学校に行ける日が来るのを夢見ている子どもたちもいる。
(ヤニス・バルファキス、表題書より)
途中も小説や映画、神話などを引き合いに出しながら、「経済」という知的な話を情的に伝えてくれます。
さわるものすべてを黄金に変えたいと望んだミダス王は、愛する人たちに触れることができなくなり、寂しく孤独な存在になった。
それと同じで、利益に汲々とする企業は、自動化が望みと反対のものをもたらすことに気付く。
「市場社会」「利益」「労働力」・・・。多方面から経済に切り込みを入れた後、この本は、次の詩で締めくくられます。
私たちは探検をやめることはない
そしてすべての探検の終わりに
出発した場所にたどりつく
そのときはじめてその場所を知る
本書の最後は、「なぜ、経済の格差は起こるのか」という、最初の問いに帰ります。しかし、私はその問いを、最初には無かった目で見て、考えることができました。
この本に限らず、いい本っていうのは、読み終わった後、物理的には自分の周りは何も変わっていないのに、なんだか世界が変わって見えるようになるものかもしれませんね。