人類が誕生し、繁栄を極め、いずれ衰退の道を辿る。
『大きな鳥にさらわれないよう』は、遠い未来、消えゆこうとしている人々の、静かで懐かしい生活を、川上さん独特の世界で描いたものです。
物語の終盤。人類が絶滅していく中、最後に残された二人、エリとレマ。エリは遺伝子を操作して、小さな人間を作ります。その人間が、小さな集落をつくり、新しい人類の歩みを始めていきます。
物語は、レマの祈りの言葉で終わります。
あなたたち。いつかこの世界にいたあなたたち人間よ。どうかあなたたちが、みずからを救うことができますように。
滅びてしまった人間たちのために、だからレマは今日も祈る。どこにも届かないかもしれない祈りを、静かに祈るのである。
(川上弘美、『大きな鳥にさらわれないよう』より)
最初、この祈りは、新しい歩みを始めた小さな人間たちに贈られているのかと思いました。
しかし、そうではなく、物語の中で滅びてしまった人間たち、つまり今の私たちに贈られているのだと気付きました。
令和の時代が始まりました。
人々は「よい時代になりますように」と祈っています。
一方で、私たちは誰かから見守られ、祈られている存在であると知ることも、祈ることと同じくらい大切なことだと思います。