辛くてまぶしい思い出 ─『若きウェルテルの悩み』(ゲーテ)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 手塚治虫さんの『火の鳥 未来編』の中で、ゲーテの『若きウェルテルの悩み』の一節が取り上げられていました。

 

私は どれほどまでに

私の頭上を飛ぶツルの翼をかりて

あのはかりしれぬ海のかなたの岸へ行くことをねがったろう

無限の泡立つさかずきから

あふれる人生のよろこびを得ることを 熱望したろう

 

 小学生の時に、この一節と出会い、私は、いつか『若きウェルテルの悩み』を読んでみたい、と思うようになりました。

 そして、それから30年以上。ようやく読むことができました。

 

 親友のいいなずけであるロッテを愛してしまったウェルテル。倫理に逆らうことであると分かりながら、それでも自分の気持ちを抑えることができません。ツルのようにはばたければいいのに、どうしても心がロッテに縛られてしまう─。そしてウェルテルは、しだいに身を滅ぼしていきます。

 

 ゲーテは晩年、言いました。

「もし生涯に『ウェルテル』が自分のために書かれたと感じるような時期がないなら、その人は不幸だ」

 

 私は、こんな突き進むような恋愛をすることは、もう、ないでしょう。

 それでも、この本を読みながら、昔の自分が重なりました。

 当時は辛いことだらけだったけれど、今思い返すと、青春していたなあとまぶしく思い出されるのです。