『夫婦脳』を三夜連続で。今回が最終です。
少し長いのですが、黒川伊保子さんが、お子さんを産んだ日の不思議な話を引用します。
18年前、息子が生まれた晩、私は不思議な夢を見た。声だけの夢である。
50くらいになった息子が、「おふくろは、しょうがない女だったけど、ひたすら俺を愛してくれたよなぁ」と、つぶやくのを聞いた夢。・・・(略)人生のひと山を越えてきたその深みのある声が、先ほど生まれたばかりのわが子だと、なぜか夢の中で、私は確信していたのである。
まるで、もう目が開かなくなった50年後の私に息子が漏らしてくれた未来の一言を、先に聞いたかのような、そんな夢であった。あれが、逝く、ということであるなら、それはあまりにも幸運な瞬間だと思う。ああ、あそこへ向かっていけばいいのだと、深い安堵に包まれつつ、私はもう一度眠りに落ちて行った。
(黒川伊保子、『夫婦脳』より)
私の息子が小学生の頃、息子が友達に悪口を言っただの言わないだのと、少し近所でもめたことがありました。その時、妻は「○○(息子)がそんなこと言うわけがない。」と私にきっぱりと言いました。親馬鹿とか過保護とかいうのではなく、本当に信じているという信念が伝わってきました。私は、(いや、男の子だから、そんなこと言ってしまったかもしれんよ。)と思いつつ、一方でそこまで信用している強さをうらやましく感じました。
女性は、おなかの中に命を宿し、およそ10ヶ月後に出産します。男性と命との出会いは、出産から始まります。ですから、「女性は、お父さんより10ヶ月早くお母さんになる」「男性は10ヶ月遅れてお父さんになる」とよく言われます。でも私は、たとえ10ヶ月たっても、いや一生かかっても、父は、母と子の関係に及ばないように思うのです。