人間への信頼を描いた物語 ─『ダ・ヴィンチ・コード(下)』(ダン・ブラウン)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 上・中巻と、いくつかの伏線が仕組まれていると思われる『ダ・ヴィンチ・コード』。聖杯を追い求めてきた旅でしたが、下巻では、少し趣が変わってきます。

 

「私たちの魂の助けとなるのは謎と驚きであって、聖杯そのものではないのよ。聖杯の美ははかなさにこそ本質がある」

「ある者にとって、聖杯は永遠の命をもたらす杯。またある者には、失われた文書と謎めいた歴史への探求。そして大半の者にとって、聖杯はただの壮大な幻想……今日の混沌とした世の中においてさえ、わたしたちに希望を与えてくれる、すばらしい夢の宝物ではないかしら」

 

 聖杯の在り処を、胸躍らせ読みながら、ここに帰着するのだと思ったとき、私は「大どんでん返しの結末だ。」という思いよりも、「なるほど、ここか。」という思いが勝りました。

 聖杯は、それぞれの心の中にある夢です。希望です。

 そして、その夢は世の中を支配するとか、思いのままに権力を行使するとかいうものではなく、女性を命を受け継いでいく貴重な存在、未来を託す存在として尊重する、そんな夢や希望ではないのかと思うのです。

 聖杯が形あるものとして証明されなくても、人は、人としての正しい道を歩む力をもっている。権力の横暴にも負けず、人間が人間らしく行き続けるために大切なことを見失わず生きていける。そんな人間への信頼を描いた物語ではないか。『ダ・ヴィンチ・コード』を読み終え、そう感じました。