医は仁術なり ─『日本史の探偵手帳』その2(磯田道史)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 整形をすると「親からもらった体に傷をつけて!」と言うのは、もう昔の話なのでしょうか。

 高校生の娘は、お化粧とかピアスとか整形とかには全く興味がなく(田舎娘なので)、私もこの容姿にかかわらず整形をしたことがないので、なんとも言えませんが、整形については、その始まりのころから意見が分かれていたようです。

 

 二重まぶた整形手術を発明したのは、日本の眼科医・内田孝蔵(1881~1952)でした。そんな内田を快く思わない医師も大勢いたようです。しかし内田にはポリシーがありました。

 

 「病気を治すのが医師の本領」という保守的な医者に、孝蔵は反論している。「それは患者の精神的方面を無視し、人生の実際を顧みない人と云はねばなりません」。医学は「人」を治すものである。病気に固執して肝心の人を忘れてはいけない、というのである。それが震災のやけど患者をみてきた孝蔵の言い分であった。(磯田道史、『日本史の探偵手帳』より)

 

 二重にしたからといって、体が健康になるわけではない。病気が治ったわけでもない。しかし、美しさに憧れる女性の心を癒したい。内田に去来したのは、そんな思いでしょうか。

 美容整形の是非は別にして、医師は「人」を、そして、「人の心」を見なければいけないという考えには共感します。以前、インフルエンザでお医者さんに行った時に、「おいしいものを食べて、ゆっくりしてください。」と笑顔で言われて、ぼやけていた頭に涼風が吹いたことがありましたから。

 ただし、家に帰ったら家族から隔離されて、「おいしいもの」どころではなかったのですが・・・。