めだたぬものの価値 ─『ロウソクの科学』(ファラデー)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

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「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 昨日のブログで紹介した蔵書印。初めて押したのは、この本です。

 

   『ロウソクの科学』(ファラデー)

 「ロウソクが燃える」ということについて、科学者ファラデーが少年少女に語った講義録です。

 私たちも、酸素はものを燃やす働きがある、水素は自身が燃える、ということを学校で習っています。加えてファラデーは、空気中の大部分を占めつつ、あまり注目されない「窒素」について、次のように語っています。

 

 (窒素は)どんな方法で試しても、何かの働きを示すことがありません。逆にあらゆるものの燃焼をおさえてしまいます。においませんし、酸っぱくもありませんし、水にも溶けません。私たちの感覚器官はこの気体をまったく感じません。この気体は、ないも同然なのです。

 ですから、皆さんは「これはつまらないし、科学的な注意に値しないものだ。」と言いたくもなるでしょう。しかし、注意深く考えると、窒素が立派な役割を果たしていることがわかります。もし大気が酸素だけでできていると、蒸気機関のボイラーの中で燃える火は、燃料の倉庫の中の日のように、機関車を燃やしてしまうでしょう。

 窒素は酸素の働きを弱め、私たちにとってちょうどよい程度に役立つようにしてくれています。

  (ファラデー、『ロウソクの科学』から抜粋)

 

 何の反応も見せず、でも実は大気の中で大切な役割を、人知れず果たしている。この窒素のような存在の人、必ず身の回りにいます。控えめで、一見いてもいなくても影響がないような人。

 でも、このような人がいてくれるから、みんなが和やかでいられたり、場のバランスが保たれたりしています。

 欧米に倣い、自己主張することのみが善とされるような風潮の中、一歩下がってみんなのことを考えてくれている窒素のような人、そんな人こそ、大切にされなければいけないと思うのです。