ある国の山中で、日本人8人がゲリラ組織によって拉致された。
長引く人質生活。廃屋の中で8人は、それぞれの過去を語り始めた。
未来がどうであろうと決して損なわれない深遠な物語を。
人質だけでなく、見張り役の犯人たちもまた朗読にじっと耳を傾けているのではないか・・・(略)たとえ物音は立てなくても、部屋の四隅に陣取る彼らの息遣いは伝わってくる。彼らが沈黙を保っているのは、意味の分からない朗読を無視しているからではない。意味を超えた言葉の響きに思わず聞き入っているからだ・・・。
このまま朗読会がいつまでも続いたらいいのに。そうすれば人質たちはずっと安全でいられるのに。
(小川洋子、『人質の朗読会』より)
極限の状況の中で聴いたヴァイオリンの音色が人々を勇気付けたとか、国境で敵対する2国の兵士を歌が結び付けたとかいう話を聞いたことがあります。この『人質の朗読会』で、8人を支えたのは「朗読」でした。
8人の語る物語は、生への祈りや希望、一方で生死を前にした思い出の無力さなど、生きるということについて静かに考えさせてくれます。「人質の朗読会」にそっと加わってみませんか。