相手を思う時間 ─「お手紙」(アーノルド・ローベル 作  三木卓 訳)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 「ぼく、お手紙 もらったこと ないんだもの。」と悲しむがまくんに、友達のかえるくんがそっとお手紙を書くお話。かえるくんは、書いた手紙をかたつむりに託します。それ故、お手紙が届くのは、その4日後になります。

 

 読んだ子どもたちの多くは、「どうしてかえるさんは、お手紙をかたつむりさんたのんだの?」と疑問をもつでしょう。「うさぎさんだったらもっと早く届いたのに。」「せめてバッタさんなら・・・」などなど。

 

 なかなかお手紙が届かず、待ちきれないがまくんに、かえるくんは自分がお手紙を出したことを伝えます。

 そして─。

 それから、二人は、げんかんに出て、お手紙の来るのをまっていました。

 二人とも、とてもしあわせな気もちで、そこにすわっていました。

 

 歌人・俵万智さんは、こう言います。

 

 あんなに身近だったものが、気がつけば、静かに姿を消しつつある。メールは便利だし、宅配便業者のおかげで、いろんなものが安く送れるようになった。ただ、そのぶん、季節を思い、その切手を見る相手のことを思う、ささやかな時間が失われた。(俵万智『ちいさな言葉』)

 

 かたつむりがもたらした二人の幸せな時間。

 超特急で進む日常で、無くしてはいけない時間。