言葉の表面と内面 ─『かってな くま』(佐野洋子)― | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 一心不乱に地面を耕すクマ。ウサギが来ても、モグラが来ても、

「ぼく、いそがしいんだ」

「おまえ、たね ほじくると、あたまから くっちゃうぞ」

などと素っ気なく追い返します。

 でも、クマが育てていたのは、みんなにプレゼントするためのお花。

 クマは、一面に咲いた花を摘んでみんなに届けます。

 たくさんの動物たちが喜ぶ中、その一部始終を見ていたフクロウは、花を届けに来たクマに言います。

「ぼく ねるの。それに ぼく、はなのしゅみは ない。それ きみに あげる」

 

 クマはつぶやきます。

「ふっふっふ、みんな よろこんだな。

 でも、ふくろうって、いいやつだな」

 フクロウの真意は、クマに伝わります。

 

 一見すると冷たい言葉。でも、その裏にはクマやフクロウの、友達への思いが隠されています。

 

 子どもたちが、言葉の表面と心とは異なることがあるということを学ぶのは、いつごろからなのでしょうか。

「注射なんて、痛くない!」と強がる友達を見た時でしょうか。

「〇〇君なんて嫌い!」なんて恋する目で言う女ごころを知った時でしょうか。

 

 言葉で、すべてを伝えることはできません。しかし、言葉の受け手が、言葉の背景に思いを馳せることはできるはずです。そして、絵本や小説は、そんな想像力がどんどんふくらむ場だと思うのです。