うどんと人間関係 ー『峠うどん物語(下)』(重松清)ー | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

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「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 「出来合いのつゆを使うと、マズくならないんだ。失敗しない・・・っていうか、失敗しようと思ってもできないんだな、つまり。でも、それじゃあ成功もないんだ。・・・(略)うどんを打つのだってそうだ。失敗するかもしれないから毎日必死で頑張る。がんばってれば、ときどき、自分でも思いもよらないような、すごいうどんが打てる。」

  (重松清『峠うどん物語(下)』)

 

 

 これって、うどんの世界だけじゃなく、ほかの職人の世界も同じだなあ。それに、人と人との関係も同じだ。そう思いました。

 

 人間関係も、うまく立ち回るすべを身につければ、万事波風立てず、無難にやり過ごすこともできます。つまり「失敗しない」。

 逆に、自分の思いを必死に伝えたり、相手のことを真剣に考えたりした時、そんなつもりではなかったのに、傷つけてしまうこともあります。互いにいい関係を求めているのに、どこか不器用にずれてしまうのです。

 でも、だからこそ、その中で、ふっと分かり合えたり、笑い合えたりするひと時の幸せに気付けるのではないかと思うのです。「すごいうどん」と出会えた時のように。

 

 今話題の「〇〇、明日の天気は?」「〇〇、テレビをつけて。」なんて話しかけると、いつでも丁寧に答えてくれるAI。便利だけれど、そこに、互いにもっといい関係を築こうなんて感情は起きないのでしょうね。

 

 ほんとは、その機械、欲しいのだけれど…。