小川洋子さんの小説、『博士の愛した数式』。
80分しか記憶が持たない数学者・「博士」と、その家政婦・「私」の物語。
その中の一場面です。
ある日、博士がメモに残した数式をもっと調べてみたいと、「私」は図書館を訪れます。
ひとしきり調べ、果てしない数と、決して正体を見せない数とが織りなす美しさに打たれながら、「私」は図書館を後にします。
図書館の階段を降りる時、ふと振り返ってみたが、相変わらず数学のコーナーに人影はなく、そんなにも美しいものたちが隠れていることなど誰にも知られないままに、しんとしていた。
「私」が感じたように、図書館には、おそらく一生かかっても知り得ることのない世界がひそかに佇んでいます。
おめあての本を探しに行くこともあります。でも、思いがけない偶然の出会いを求めて図書館に足を運ぶことも少なくないはずです。
図書館に惹かれるのは、そこに、まだ見ぬ「知」や「感動」が隠れているから。
「砂漠が美しいのは、どこかに井戸を隠しているからだよ。」
『星の王子さま』の一節を思い出しました。