会員総会後、落語協会のハラスメント対策はこれからどうなるのか? | 吉原馬雀の奇妙な冒険

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元・三遊亭天歌でしたが、吉原朝馬門下となり、高座名が変わりました。

吉原馬雀(よしわら ばじゃく)です。

 

 

 

 

 

おつかれさまです。元・三遊亭天歌です。

 

 

今回は2023年6月29日に開催された落語協会の会員総会(正式には社員総会)について、今後の落語協会としてのハラスメント対策に焦点を当てて、ご報告します。

 

 

全体的な感想で言うと、この先取り組んでいただきたい課題はあるものの、私は前向きとなれる印象を持ちました。

 

 

 

以下の順番で説明します。

 

 ① 総会資料での記載

 

 ② 朝馬師匠のスピーチ

 

 ③ 質疑応答

 

 ④ 私の今後について

 

 ⑤ 補足解説:議案についての法的評価

 

 

 

① 総会資料での記載

 

 ・令和4年度事業報告書に以下の記載がありました。

 『ハラスメントなどの各問題に対応する「問題相談窓口」を設置した。』

 

 ・令和5年度事業計画書に『2.会員育成』として以下の記載がありました。

 『⑤ 各師匠は弟子をもつという責任と自覚を持って、時代に応じた指導育成に努める。』

 『⑥ 弟子に対し楽屋入り前に寄席での働き、立ち居振舞いなどの指導を徹底する。』

 『⑦ 定期的にコンプライアンス等の勉強会を開催する。』

 

 ・それと私たちの提出した議案とともに、以下の説明がありました。

 また資料の表紙に「会議目的事項」がはっきりと明記されるようになりました。

 これは議案を通して、総会の目的が争点となったため(後述)、書式が従来のものからコンプライアンスに配慮し改善されたものと思っています。

 

 

 

② 朝馬師匠のスピーチ


 議案署名者を代表して、吉原朝馬師匠より議案に託した思いのスピーチがありました。

 

 まず昨年4月パワハラ防止法全面施行からの議案提出にいたるまでの事実経緯の説明の上で、全文ではありませんが以下の旨のお話がありました。

「昨年10月28日の会員に対する事情説明会にて、世間から協会批判を受けていることを踏まえ、会長に対し『落語協会としてハラスメント対策を行った上、発信をすべきではないですか』と掛け合い、会長より『やります』と返事をもらったが、その後緊急理事会は開かれませんでした。今もこうして同様の主張をしていることにもどかしさを感じています」

「現状もお客様から天歌の元師匠への抗議はなおも続いており、世間からハラスメント対策を求める声は続いています」

「議案を総会で決議できない、そして理事会の議事録も確認させてもらえない以上、会員の声を受けて理事の皆様には、一門などの忖度を外して自由闊達にハラスメント問題を議論し、きちんと協会として取り組むのか否か方針を示してほしいです」

「元天歌の民事裁判も時間がかかりますがいずれ決着がつくので、協会として『ほとぼりが冷めるまで待つ』という甘えは許されません」

「落語界の師弟制度は無償の愛ですばらしいものです。しかし、これだけの会員数が増えてしまった以上、指導教育を超えた理不尽なハラスメントには協会として対策を是非とも講じていただきたいです」

「来年で落語協会は100周年となるが、だからこそ協会はこれまでをふりかえり総括して、次の100年へとつなげていくべきです。これこそが先人の師匠方への尊敬と感謝と御礼だと思います」

「是非ともハラスメント対策委員会を立ち上げて、会員が胸を張れる落語協会にしていただきたいです」

「議案にともに署名捺印をしていただいた方は、いち社会人として勇気をもって協力してくれました。総会資料で会員各自へ議案を配布していただきました。配布の議案は私より署名者の黒塗りをお願いの上でそうしていただいてますが、重ねてのお願いです。そういった方々を差別しないでください」

「自分は協会のハラスメント問題のファーストペンギンとなります。あとから付いてくる皆様方を信じています。貴重なお時間ありがとうございました」

 

 

 以上のスピーチを受けて、壇上の理事からは以下の趣旨のお話がありました。

 

「今この場での即断はできませんが、毎月開催されるの理事会の中で、一時間近くこのハラスメント問題が話し合われています。理事からも色んな意見が出ています。いろんな意見を闘わせて、大好きな落語協会を一番いい方向に向かわせようとしています。朝馬師匠からいただいたハラスメント対策委員会についても、毎月の議論をしています。これからも鋭意議論を続けます。我々理事も朝馬師匠と同じ気持ちでございます」

 

 

 

③ 質疑応答

 

 会員A「理事会はきちんと話し合いをしているのか?」

 

 理事「聞いていただきたいぐらいに毎月毎月話し合いをしています。事務局長への講習や会員一同への講習会など少しずつではありますが進歩しています」

 

 会員A「相談窓口は誰がやっているのか?」

 

 事務局長「いただいた相談は事務局で受けます。内容によって外部顧問・会長・理事会に諮っています。責任者は会長です」

 

 会員A「外側だけ作っても中身が伴っていないとどうしようもない」

 

 

 会員B「ハラスメント問題は重要な問題として毎月話し合われているとのことだが、何が話し合われているのか私たちには聞こえてきません。理事会の議事録の閲覧などはできないのでしょうか?皆様がどういう意見をもっている理事なのかというのもわかりません。過程が大事で、生の声が聞きたい。張本人も出てこない。落語協会を知らない人もこの事をつぶやいて、落語協会はどんなとこだろうと思われている。真打って弟子をとったら何でもやってあげる、こんな社会はない。話は脱線しましたが、理事会の議事録の閲覧を希望します」

 

 理事「貴重なご意見として承ります。ありがとうございました」

 

 

 

 私から以下の質問をさせてもらいました。

 

 「相談窓口で受けた相談はまず事務局長で確認すると思われますが、そのあと理事会に取り扱われると、多数の理事がいるため被害者のプライバシーは確保されず、被害者は利用しづらいと思われます。理事の皆さんで共有すべきことなのか疑問です。事務局長からどのような情報が理事会で共有されるのでしょうか?」

 

 事務局長「事務局で受けた相談はまず外部顧問の方と相談します。一般社会の裁量で解決できないものについては、会長に理事会にあげたほうがいいのか判断した上で、理事会にかけることがあります。相談いただいてすぐ理事会にかけることはありません。現状1件相談がありましたが、外部顧問と相談しまして、理事会には解決しましたと報告のみとなっております。内容については理事会で把握していません」

 

 私「プライバシーに配慮されているとの事で安心しました。こういったことを会員に周知すると、安心していざという時に利用しやすいと思いますので、ご検討をお願いします」

 

 理事「貴重なご意見ありがとうございました」

 

 

 

④ 私の今後について

 

 まず愚痴を言わせてください。去年の会員総会は、本当に悔しかったんです。事前に私は協会に対し、元師匠のハラスメントを証拠とともに告発したにも関わらず、元師匠は理事として再任がなされてしまったんです。これは本当に起こってはいけない事でした。

 

 私に元師匠を許せない気持ちがあるのは言うまでもありません。が、協会という組織のため法的観点に触れれば、これからの時代は、パワハラ防止法内の役員の責務として、あまりに遵法意識に欠ける人物を理事として認めてはいけないのです。協会の最高意思決定機関の総会で、そんなことが認められてしまったことに1年前の私は深く絶望したのです。

 

 だから、一連の問題提起の終着点は、初めからこの会員総会をおいてありませんでした。

 今年の総会をより良いものにしたいという気持ちが私には人一倍ありました。

 以上が今年の総会に臨んだ私の正直な気持ちです。

 

 そして今年の会員総会は、従来と比べて、内容面がかなり進化したと思います。

 資料・担当理事各自からの説明・鋭い質疑・それへ何とか回答しようとしていただいた事。何より会員から初めて議案が提出され、それを受けて有志代表からのスピーチを協会が提案していただいた事。その代表として朝馬師匠が真摯に取り組んでくださったこと。

 

 まず資料に関していうと令和5年度事業計画書内に『会員育成』として『定期的にコンプライアンス等の勉強会を開催する』との記載は評価すべきと考えます。少なくとも今年度中になんらかのコンプライアンス研修が予定されており、会員に対する啓発を協会が引き続き率先して取り組んでいただけるのはありがたいです。

 

 朝馬師匠からは、一般のお客様・理事の皆様・協会を築き上げた諸先輩方・署名された方と幅広く配慮されながら、ハラスメント対策委員会が必要ではないかと主張され、私は感銘を受けました。

 

 また質疑応答を通し、会員の皆様からとりわけ理事会での議論が見えてこないことに対して十分な問題提起もできました。

 理事会の議事録閲覧請求は、会員の拍手などを通して、希望が大きいことが分かりました。

 また相談窓口の責任者が会長と分かったことも大きいです。質問をしてくださった方のおかげです。

 私からは相談のプライバシーについて質問し、ある程度確保されていることが確認できました。

 

 あとは更なる内容面の改善のため、今後の理事会がどのように動いてくれるのかをしばらくは見守りたいと思います。それゆえ今後も私はいち会員として、理事会の議論を注視し、改めて詰めてほしいポイントはひきつづき書面で質問を続けていきます。なんとか今の相談窓口を、1年前の私が信頼して相談できるほどには改善してほしいのです。

 

 同時に今年の総会で不安だった問題の風化も杞憂に終わりました。会員の皆様からは今も変わらず問題意識をもっていただいており非常にありがたかったです。

 

 思えば、会員の多くの皆様には昨年10月の寄席での会員への事情説明会・昨年12月のハラスメント説明会を兼ねた寄合に関心を寄せて参加いただきました。そして私は多くの人の集う場所に向かう事に対して、プレッシャーで押しつぶされそうな気持ちもありましたが、それでも足を運んで必要な情報の確認をしました。今年4月からは議案の署名を求めいろんな会員の方に電話をし、時に直接お話をさせていただき、何とか議案を提出できるところまで漕ぎつけました。そして今回の総会に参加し、内容面の進化を感じました。

 

 総会で協会には自分の居場所もありそうだなあと分かりました。協会内での噺家復帰を目指して動きます。近くよい報告ができればと思っています。

 

 同時に来年の総会にむけて、ハラスメント対策をめぐる理事会の動向について、引き続き発信させていただくことは決めています。来年秋にはフリーランス保護法が施行されますので、今後の協会の取り組みは非常に重要になります。私がどのような手段やどのような方針で更なる対策の充実を求めていくか、また今現在一般の皆様にお願いしている署名の取り扱いについても、関係者でさらに詳細な検証をしたうえで決定したいと思います。

 

 ただ発信については、これからはもっと気楽でどうでもいいことも投稿していきたいです。

 

 

 

⑤ 補足解説:議案についての法的評価

 

 最後に今回の議案について、なぜ会員からの決議を問う手続きまで進めることができなかったのか、今後のために記録を残しておきます。

 

 これについては、今更文句を言う目的での記載ではなく、あくまで今後の総会のための記録になります。

 

 余談ですが総会の後、朝馬師匠やもう一名署名された方とも認識が一致したことがあります。今回は議案の決議を取るよりも、朝馬師匠のスピーチのうえで質疑応答に移れたのは、かえって会員全体で問題意識を共有できて良かったという事です。もし議案の決議のみになれば、可決でも否決でも、却ってしこりが残ってしまったかもしれません。

 

 おそらく落語協会では会員から初めて提出された議案でしたが、理事の皆様と協会弁護士さんに対し、議案の取り扱いについて感謝しております。

 

 その上で、議案の法的な確認は今後のために必要だろうと思いますので、以下検証します。

 まず一般社団法人法に基づき、今回私たちが提出した議案は以下の内容です。

 私の弁護士と協会の弁護士で、問題となったのは「議題」の有効性についてです。

 

 「議題」とは会員総会の目的を指し、上記記載の「協会の相談窓口に関する決議」(1ページ記載)がこれにあたります。

 

 私たちはもちろん上記「議題」が有効との認識で提出していますが、協会からは不適法との回答でした。

 

 協会の主張は、落語協会定款13条により「議題」は以下の内容に制限されるとのことです。


 ・正会員の除名
 ・理事又は監事の選任又は解任
 ・理事及び監事の報酬等の額
 ・定款の変更
 ・解散及び残余財産の処分
 ・その他社員総会で決議するものとして法令又はこの定款で定められた事項

 

 よって今回の「協会の相談窓口に関する決議」は定款の記載がないため、不適法との回答です。

 

 

 一方で私は、議案(2ページ記載)のほうに「上記の案が可決された場合に、定款または細則を変更させる事」と明記されているので、社員の権利として慎重に取り扱い議題は「定款の変更」として修正し、有効な議案として取り扱ってよいのではないかと主張しました。

 

 あわせて私の弁護士さんも一般社団法人法の手続きに則って提出している以上、議題を「その他社員総会で決議するものとして法令又はこの定款で定められた事項」と解しうると主張しました。

 

 あと私の本音を言えば、議題を「定款の変更」「その他社員総会で決議するものとして法令又はこの定款で定められた事項」いずれにも変更したくない気持ちがありました。可決のためのハードルが上がるんです。

 出席者の過半数の賛成でなく、上記の議題だと総会員数の3分の2以上になってしまいます。

 

 だから社員提案権と株主提案権は似ている制度ですが、利潤を追求するための株主総会での議案運用のような厳格な法解釈ではなく、人と人のつながりで成り立つ一般社団法人だからこそ、もっと柔軟な運用が望ましいのではないかと思うんですね。

 

 いずれにせよ、迅速な裁判手続きの仮処分で争わない以上は、今後提出する有効な議案は以下のようにするしかありません。

 

 議題は「定款の変更」

 議案は「定款の●条に『落語協会全体のハラスメント対策を推進する目的のため、会員有志によりハラスメント対策委員会を設立する』旨を明記する」

 

 ざっくりこのようになります。

 

 協会弁護士さんからも議題を「定款の変更」にしてくれればよいと確認は得てます。

 

 なお有効な議案書式については、今後総会で提案をされたい方のために、詳しい解説とその書式テンプレートを別サイトで立ち上げて近日中にご案内予定です。こちらでは法的な手続きをもっと深く、そしてなるだけ分かりやすく解説を心がけます。他の一般社団法人の方でも参考になるようにしたいです。

 

 せっかく署名いただいた会員の皆様には決議まで運べず本当に申し訳ない気持ちがありますが、それと同じくらい今後の落語協会の総会のために重要な確認をさせていただいたことに対し深くお礼を申し上げます。