「この間の話の続き、どうかな?聞きたい?」
「…好きにすれば?」
じいさんは、一度始めたネタは最後までやらないと気が済まないタチだったようで、
夏休みの間は、ずっとこんな感じでしょーもないホラ話を聞かされていました。
ゲームに夢中なガキンチョの鈍いリアクションに何を期待してたのかはアレですが、
よくもまあ懲りずに話を続けてくれたモンだなと、弱小ブログの主(ヌシ)としては
その諦めの悪さを多少なりとも見習ってみようかと思っています。
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ニュージーランドに行ったのは、その年の12月。
最後に訪れたオークランドで見たのは、マオリの超人だった。
暑いのは嫌いだったから、部屋にこもってやり過ごそうかと思っていたんだが、
前日に見た二段ジャンプがどうしても忘れられなくてね。
出発を明日に控えたその日一日使って、居場所を突き止められないまでも、
せめて何か情報だけは掴んでおきたいと思って、朝から調査に乗り出したんだ。
どうやって調べたのかって?
現場近くのホテルや商店に片っ端から聞いて回ったのさ。
私以外にも目撃者はいたはずだからね。あんな超人みたいな離れ業、
忘れようったって中々忘れられるものじゃない。だから情報は意外と簡単に集まったよ。
それによると、昨日フェリーに乗ってここを離れたあの男は、フェリーに乗って、
今朝には戻って来たらしい。
それと工事現場で働くみたいな格好をしていたそうだから、その辺りを探せばいいわけだ。
それでもだいぶ時間はかかったけどね。町外れの廃ビルで男を見つけ出した頃には、
もうどっぷりと日が暮れてしまっていたよ。仕事が終わるまで待っていようと少し離れた
場所でぼんやり眺めていたんだが、男の仕事はどうやら解体工のようだった。
身の丈くらいはあろうかという巨大なハンマーを軽々と振り回して、
壁から窓から次から次へと、それはもう実に見事な手際で壊していくんだ。
他の連中が手こずってるような固い壁でも、男にかかれば一撃だった。
鉄筋のはずなのに、男のいる所だけ紙で出来てるんじゃないかと思ったくらいだ。
「そろそろ終わりにするぞ~」
ビルのすぐ外にいた、たぶん現場監督だったのかな。
彼の号令で、ビルの中から出てきた作業員が続々と集まってきた。
いよいよだなと思って近付いていくと、廃ビルの上の方で、何かが動いたのが見えたんだ。
「Watch out!!(あぶない!!)」
ひび割れてもろくなった壁の一部が崩れてきたんだ。
私は思わず叫んでいたよ。それに気付いた作業員たちは慌ててその場から蜘蛛の子を
散らすようにその場から離れていったんだが、気付かないまま出て来た最後の1人が、
あのマオリの男だった。しかもタイミングの悪いことに壁ひとつ分くらいの大きな塊が、
そいつの頭上めがけて落ちてきたんだ。
「しょおぉ~りゅ~けん!!」
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ぼくの操るケンは、10回目にしてようやく昇龍拳を出せたのにそこに相手はおらず、
じいさんの操るブランカは画面の端で、ひたすら発電していました。
ぼくもじいさんも、格闘ゲームは大の苦手だったのです。
〈続く〉