(再録)新作落語”風”与太話『ゆりげら』・前編 | せいぜいひまつぶしの小話

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5年目から創作系ブログとして新装開店しました。
色々と思うところ書いてます。講談社への抗議不買は一生続けます。
2022年12月からは小学館もリストに加わりました。
「人を選ぶ」とはつまり「自分は選ばれた」ということです。

むか~し、むかし。

ぼくがまだ小さかった頃、
近所に住んでいた隠居のじいさんは、

ぼくに色々な昔話を聞かせてくれました。

とりあえず過去作の再録でお茶を濁しておきます。メイドイン昔話のお時間です。

1996年の2月27日。初代ポケモン“”と“”が発売されてから、
およそ20余年。図鑑の完成に通信交換が必要なのは、今も昔も変わりません。
今でこそネット環境さえ整っていれば世界中を相手に簡単に出来ることですが、
最初の頃はリアルに相手を探す必要がありました。

そしてぼくの場合、コチラの都合よく交換に応じてくれる相手となると、
心当たりは1人しかいなかったわけで…。

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「カイリキーになった?」

「ああ、なったよ」

「じゃあ今度はユンゲラー送るからカイリキー戻して」

「ホイきた。そうしたら今度はゴローンとゴーストを交換して、
 最後にレベル3のポッポが戻ってくれば、ひと廻りするわけだね。
 ロコンとブーバーと、マダツボミはどうする?」


「それもちょうだい」


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こんな具合で、実質、交換用のもう1台みたいな扱いでした。
どっちがどの色で遊んでいるか、今の会話だけでも分かる人には
一発で分かると思いますが、我ながら図々しいクソガキっぷりです。

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「ああ、いいとも。そう言うだろうと思ってね、2匹ずつ
 捕まえておいたんだよ」


「?なんでそんなの分かるの?」

「自分だったらどうするかって考えただけさ、手元に置いておきたい気持ちは
 分からんでもないからね。それにしても、ずいぶんと人気が出たもんだ。
 アニメ化されて1年だっけ?今度は映画もやるんだろう?
 だがそんな風に上り調子で金や人気が集まってくると、
 知らず知らずのうちに厄介なものまで引き込んでしまうことがある。
 江戸時代の落語なんだが、似たような小噺があってね」


「落語のネタなんかどうでもいいから早く戻してよ」

「聞いてくれたら戻してあげよう」

「…長いの?」

「地獄八景亡者の戯れを聞くより短いよ、少なくともね。
 時代は江戸後期、町人文化が花開いた文化文政時代のことだ。
 今のポケモンにそっくりな遊びが江戸を中心に全国で大流行、
 いや!社会現象と言った方がいいかもしれない。
 なにしろ子供たちはもちろん、老若男女身分の上下を問わず
 みんなが夢中になっていたわけだからね。それを詠んだこんな句がある。

 
 げつとだぜ げつとでござる げつとだべ
 げつとでありんす げつとでおじやる  

 
 字余り、なんてね。

 当時どれだけ幅広い層に人気があったかよく分かるだろう?」
 
「ちょっと待ってよ」

「?なんだい?」

「江戸時代にゲームなんて無いよね」

「そりゃあるわけないさ。これはあくまで似たようなもの、ということでね。
 集めたり対戦したり、交換したり、そういうことが出来るのは、
 べつに電子ゲームだけの特権じゃない…なんてこと言ったらいかにも
 本当にありそうな気がしてくるかな?」


「しないよ」

「だろうね。まぁ兎にも角にも、この大ヒットは仕掛け人の運天堂本舗に
 莫大な利益をもたらした。ン天堂じゃなくてう・ん・て・ん・どうだ。
 人事を尽くし“運”を“天”に任せるというちゃんとした理由があってつけられた
 名前であって、テキトーに誤魔化すのにゴニョニョと言ってるわけでもなけりゃあ
 間違ってもあの有名な花札卸(おろし)をモジったわけじゃあない…なんて言ったら
 いかにも本当にありそうな気がしてくるかな?」


「しないよ」

「だろうね。さて本題はここからだ。そうやって上り調子で金や人気が集まってくると、
 知らず知らずのうちに厄介なものまで引き込んでしまうことがあるのは、
 今も昔も変わらない世の常、というヤツでね、ある日のことだ。
 もの凄い剣幕で運天堂本舗に乗り込んできた1人の手妻(てづま)師がいた。

 てめぇら人のネタ勝手に使いやがってどういうつもりだ!!

 その手妻師、名を“ゆりげら”といった」


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落語風の与太話を前後編にぶった切るのはどうかと思いましたが、
全部載せると長くなりそうなので、何卒ご容赦ください。

〈続く〉 →目次に戻る

 

↓桂米朝『地獄八景亡者の戯れ』