そもそもタカがアダチと出会ったのはそのビジネスホテルにてだった。当時大学生だったタカは、アルバイトとしてホテルでアダチと共に働いた。
大学を卒業するとタカは東京へ行ったが、正社員だったアダチはそのままホテルでの仕事を続けた。
そして問題の年を迎えた。阪神・淡路大震災が発生したのだ。ホテルがつぶれ、アダチは職を失ってしまった。
「あれでなにもかもが途切れた」
震災前、アダチは北欧を旅し、オーロラを見に行く計画を立てていた。生まれて初めての海外旅行であり、パスポートも申請していた。そしてまさにパスポートが発行されるという前日にあの悪夢が街を直撃し、状況は旅どころではなくなってしまった。
アダチはダイビングの講習も受けていたのだが、これも地震のために中断を余儀なくされた。
その後しばらく無為のうちに過ごしていたがパチンコ屋での仕事を見つけ、以来働き詰めの日々を送ってきた。もはやオーロラの夢を見ることもなければ、海を思うことはなかった。
そんなとき久しぶりにタカと会い、ドルフィン・センターの話を聞いた。語るタカは輝いて見え、アダチは自分の中で眠っていたものが呼び覚まされるのを感じた。
お茶目な表情のアダチ(大阪市梅田 2000年)