ここも満員だったが、船内の他の場所に比べるとまったく少ない方だった。
おまけに長椅子の一脚に横になって数時間の仮眠を取ることができた。これだけでも船旅はグンと楽になった。
出航したのは夕方の六時で、アウキに到着したのは深夜の十二時過ぎだった。
(ビリーどこかな……)
探してみたが、あまりにもの人の多さについにその姿を見つけることができなかった。
しかもあとで分かるのだが、下船する頃にもなるとビリーはすっかりぼくのことを忘れていたという。
そもそものところビリーは顔が広過ぎるのだ。
船の中で色んな人と話し込み、話に夢中になったあまりぼくのことは完全に意識からなくなってしまったのだろう。
これがビリーという男だった。