ラモス号にまつわる小話をもう一つ。
数年後のことになる。ぼくは再びラモス号の中にいた。
クリスマスのシーズンで、波止場から船内に至るまで大勢の人で入り乱れていた。
立ち込める熱気となんとも言えない汚臭に胸がむかついた。これからの船旅に目の前が暗くなる思いだった。
「よし、おれについて来い」
と言ったのは、ぼくのお供をしていたビリーの次男ジュニアだった。
この男は根はいいやつなのだが、頭の回転が早い上にずる賢いところがあり、おまけにどちらかというと悪人顔と呼ぶにふさわしい面構えをしていた。
その悪人顔がぼくの荷物を取り、おれについて来いと言った。
てっきりファーストクラスへ連れていかれるのかと思った。が、ジュニアが向かったのは反対の方向だった。
狭い階段を下りていくと、なんとジュニアは堂々と乗組員専用の部屋に入っていった。
もちろんジュニアは乗組員ではない。が、乗組員の中には友人知人が多くいたので、部屋に入ることが許された。
ラモス号の甲板に立つジュニア。手を挙げてる(ソロモン諸島ホニアラ 1997年)