●動乱はわが掌中にあり~情報将校明石元二郎の日露戦争 @水木楊 | ★50歳からの勉強道~読書録★

★50歳からの勉強道~読書録★

本は友達。一冊一冊を大切に記憶に留めておきたい。

坂の上の雲を読んでいて気になったのが
日露戦争時、欧州に単独潜伏して
ロシア国内に革命を起こすべくスパイ工作
をした、という陸軍大佐明石元二郎。


これほどの裏工作を日本人が?
007やミッションインポッシブル・・みたいな怪しく
危険な香り。。尾行、偽名、二重スパイ・・


ある時はアメリカの大富豪、またある時は
パーティーを主催するパリの侯爵。
しかしてその実体は・・・


小さい体、外れかけのボタン、左右違う
靴下を履いてたりする日本人将校。
その暗躍は  「明石一人で満州軍二十万に
匹敵する戦果を挙げた」  


これこそロシアの秘密警察オフラーナが
終始危険人物としてマークし続けた
大物スパイマスター・アカシなのだ!






明石元二郎は福岡藩の出身で、生まれた
元治元年は禁門の変やら天狗党争乱やら
まさに動乱の申し子というべきか。


陸軍大学校を卒業するとドイツ留学を経て
パリ、ロシアに駐在を歴任。
この間、驚異的な集中力で独・仏・露語を
完璧にマスターした。


経歴は華やかなエリート秀才っぽいけど・・
まず特徴として、服装が汚い。身なり構わぬことこの上なく、一種の奇妙人?


山県有朋は「明石というのは恐ろしい男だ」
と言っている。


日露戦争後、山県の邸で自らの新構想を
熱く語るうち、オシッコを漏らし、しかし
気に留めず、山県の足元まで流れていった
、、というから、そりゃ恐ろしかろ。


そんな男に山県は、一人で爆弾を抱え
ロシアの心臓に投げ込んでこい!と
今でいう総額70億を渡したわけで、さすが
奇兵隊の狂介、こっちも相当恐ろしい。


ともかくこの70億でロシアの革命分子に
働きかけ、フィンランド、ポーランドの
独立運動を煽り、武器を渡し蜂起させた。


明石の暗号情報は、ポーツマスの小村を
勇気づけ、強気の交渉を可能にした。
ロシアは内政混乱により日露戦争継続が
困難となり、ついに講和が成立したが・・・



明石工作の破壊力に山県は慄然とする。


このままでは帝政ロシアが消滅しかねず、
交渉相手そのものを失うことになる。
講和成立後、急いで明石を帰国させた。






明石の協力者には大物スパイがぞろり。



一番はシリアスク。暗号「知矢」。
日本滞在の経験があり、「日本の研究」と
いう著書もあるフィンランド人だ。



シリアスク



英国スパイ史上“エース”と言われた
シドニー・ライリーには旅順潜入を依頼。


その情報で攻略は成功、ライリーは東京で
多額の報償金を受け取った。ジェームズ・
ボンドのモデルになった人なんだって。


その他、血の日曜日のガポン神父 「瓦本」、
ロシア社会革命党のアゼーフ、また
レーニンには特に敬意を抱き、「礼仁」と
いう暗号を付している。


当時、スパイや革命家は偽造パスポートで楽々出入りしていて、それに手を焼いた
各国政府が第一次世界大戦中に、ビザと
いう手続きを編み出したそうだ。



レーニン


ガポン神父  (実は二重スパイ)

     

アゼーフ    (実は二重スパイ)   





日露戦争後の明石は、韓国併合に働き、
「あらゆる手段を用いて、併合を阻害する
ものを取り除いた」


一転、抑圧側に回ったことになるが、
物事を処理する冷徹さに変わりなし。
強い日本を推進するべく任務を遂行した。




実は絵や詩文が上手かった。
巨額の軍資金には明細を付け、残金を返還したという、珍しいスパイさん




これは日露講和後、帝政ロシア崩壊目前の
帰国命令に、悔しい思いを綴ったもの。


       長蛇逸せり長蛇逸せり、
       逸して黒竜となって百川を吸う。
       ・・・・・・


ドクロはロシア。傷を癒したロシアは
再び立ち、満州が火種になって日本列島が
脅かされるだろう、、という意味だ。