タルト・タタンの再構築、カレットにて | 塚本有紀のおいしいもの大好き!

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フランス料理とお菓子の教室を開いています。おいしいものにまつわる話し、教室での出来事など、たくさんお届けします。
 

2010年10月31日(続き)

レストランへ行く約束の前に
トロカデロ広場へ

$塚本有紀のおいしいもの大好き!-夜のエッフェル塔


トロカデロ広場は、繰り返し繰り返し日本のテレビやポスターやCDジャケットに登場する場所。真ん前にすぽーんとエッフェル塔が見えます。あまりにありきたりすぎ・・とは思うものの、私はこの場所が大好きです。壮大な建築物と、絵になりすぎる景色と、心躍る気持ちがぴったり合致するからなのかも。

さてこのトロカデロ広場にある
コーヒーカレットへ。
Carette
4 place du Trocadero

たくさん並ぶ老舗のカフェの一つなのですが、私が昔パリに住んでいた15年ほど前、マカロンといえば、ラデュレかカレットが双璧と言われていたように思います。なぜカフェなのにマカロンが有名なのか、本当に不思議(有名なお菓子屋さんがいっぱいあるのに)! ところがカレットのマカロンは大きいサイズだったので、私には興味はありませんでした(固いから)。
2008年にリニューアル。パティスリー部門が充実し、まるでお菓子屋さんのような美しいショーケースに大変身しました。

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マカロンが、最近のスタンダードとも呼べるサイズに、小さくなっていました! 買ってみたのは、カシスとキャラメルとカフェの3つ(4.8ユーロ)。中心がねっちり柔らかめ。マカロンの生地とクリームの境目がまったく判別できない感じです。
フルーツケーキ(2.5ユーロ)は、まっすぐオーソドックスに王道を行く味わい。
そして一番おいしくて、感心してしまったのは、タルト・タタンです。


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タタンといえば、じっくり火を入れてキャラメル色になったりんごを使った伝統のお菓子。ところがこれはあっさり火入れした丸ごとのりんごのスライスが段上に積み上がり、芯の部分には塩キャラメルのバタークリームが詰まっています。底には分厚いサブレ生地、上はシナモンの風味のあるシャンティ。なんとも現代的な味わい、かつ緻密に計算された組み合わせです。伝統のお菓子の現代的再構築とはこうするのだ! と感心してしまいます。写真がヘンなのが残念ですが、ビジュアルもじつに美しいものでした。


このスタイルのお菓子は何もカレットだけでなく、もう少し前にすでに他のパティスリーでもあったと聞きましたが、本当に素敵だと思います。(後日、教室でお菓子の授業として再現してみました。
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本物はたぶんりんごのレネットをキャラメルと一緒にまるごと真空調理してあるのではないかと思いましたが、そんなすごい機械は持ち合わせません。考えた末「特大プリンカップ」にキャラメルとサンフジを入れてオーヴンで30分焼きました。サブレの上にひっくり返し、中にはとろんとしたキャラメルソースを詰めてみました。本物ほどうまくは行きませんが、それでも新しいおいしさ発見で、楽しい授業になりました)


さて大急ぎで、約束のある
食事ビストロのグルーへ
Glou
101, rue Vieille du Temple 3e

前菜は「ユー島の白マグロのスモークThon blanc fumé de l'île d'Yeu, creme généreuse」
メニューには但し書きがついていて、「絶滅のおそれが少ないこのビンナガマグロは、沿岸漁業で少しだけ獲ったもの」とあります。ユー島は大西洋沖のフランス領の島のこと。
なんでもこのビストロは料理人ではなく、ジャーナリストが立ち上げたお店で、ビストロ・ガイドの「プチ・ルベイ」で09年のモダン賞を取ったのだとか。食材の選定にとても精力を注いでいると聞いて、来てみたかったのです。

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主菜は「オーブラック産牛肉のバーガーLe burger 100% Aubrac haché à la commande」
しかも注文が入ってから刻んだお肉とあります。
オーブラックは中央山岳地帯にある町、その牛肉がおいしいことで有名です。これをバーガーに仕立ててあります。セレアルののったバンズに、チーズ、ピクルス、たっぷりのマスタード、そして酸味の強いセミ・コンフィのトマトがよいバランスを作りあげます。
焼き加減を聞かれ、ついミディアム・レアseignantと言ってしまいました。こちらのミディアムはほんとうにレアにほんの少し火が入っただけの容赦のないもの。バーガーにしてはかなり生々しい焼き上がりです。しかしお肉のおいしさを口いっぱいに堪能でき、ハンバーガーはぜひこうあってほしいと思わせるものでした。
添えられた小さいじゃがいもがまたよい仕事をしています。日本で新じゃがの前にでてくる小さいものは、可愛いけれど味ものらず苦みがあるので敬遠していますが、フランスの小さいじゃがいもは別物です。きちんとおいもの味があり、メークインのようなしまった食感でとてもおいしいのです。

同行者のメインは
「ロゼール産乳呑み仔羊の膝肉、ココナツいんげんとインドカレーの風味でSouris d'agneau de lait de Lozère au haricot de coco et curry indien」
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ロゼールというのはやはり中央山岳地帯にある町で、ここの仔羊にはラベル・ルージュがついています。その仔羊の中でも、乳のみ仔羊といえばさらに高級食材の一つ。さらにさらに膝肉sourisというのは膝関節についている小さい筋肉のことで、おいしくて評価の高い部分なのです。なんて贅沢なのでしょう! ほろほろに煮込んでありました。添えられた白い小さい粒が、ココナツいんげんharicot de cocoです。

デザートは「自家製ヨーグルトYaourt Glou」を頼んでみました。評判なのだそう。
器にはヨーグルトの上に、とろんと茶色いピュレがのっています。食べてみると、何だかよく分かりません。小豆のような味と食感・・・。
「これ何ですか?」
「ジャム」
「何の?」
「レンズ豆! 」
言われてみればたしかにレンズ豆の味。日本のフランス料理店にレンズ豆の善哉があると聞いて、なんて頭がいいのだろうと感心したことを思い出しました。
しかしレンズ豆のジャムが評判のデザートとして成立するのなら、日本のあんこがフランス人に受け入れられる日も、もしかしたらもうすぐそこなのかもしれません(これまでは、あんこが食べられる外国人はそうはいないものでした)。

フランスの銘柄のついたよい食材を使った料理を食べてみたければ、グルーはおすすめです。
ちなみに店名のグルーglouとは「のどをならして飲む様のこと」と隣席のフランス人カップルが教えてくれました。グルグルはさしずめ、日本のゴクゴクでしょうか。可愛いく、しかもおいしそうなイメージを喚起すると思いませんか