気になる韓国語発音 どうして【맛없다】は「マドプタ」になるの? | 小さな町から韓国語

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生徒さんによく質問されることの中から、今回は、形容詞【맛없다】の発音について書きたいと思います。

 

初級学習の段階で習う【맛없다】は、「まずい」という意味の形容詞。

 

発音は、これも初級段階で何度も聞いているかと思いますが[마덥따](マドプタ)となります。

 

一方、【맛없다】の反対の【맛있다】は、通常 [마싣따] (マシッタ)と発音されます。

 

なんで、【맛없다】が[마덥따]になるのか。そんな質問をよく受けます。

 

ちょっと長い説明です。ご了承ください。

 

パッチムの発音の基本確認
 

韓国語のパッチムは全部で27種類あります。でも、発音自体は7種類に集約されます。

例えば、 【ㄱ 】【 ㅋ 】【 ㄲ 】【 ㄳ 】【 ㄺ 】 という5つのパッチムの発音はどれも同じ[ㄱ]です。

同じく、【ㄷ】【ㅌ】【ㅈ】【ㅊ】【ㅅ】【ㅎ】という6つのパッチムの発音はどれも同じ[ㄷ]です。

このように実際のパッチムの発音[ㄱ]とか[ㄷ]を「代表音」と呼んだりします。

 

パッチム の後に母音がつづくときの決まり

韓国語の標準語規定「標準発音法第4章」に、パッチムの発音について詳しくルールが記載されています。

その中の第15項の中に

 

「パッチムの後に母音で始まる実質形態素が続く場合パッチムは代表音に変え、連音化して発音する」

 

とあります。

 

「実質形態素」というのは、それだけで意味のある単語のことを意味します(日本語文法だと「自立語」といったりします)。

 

例えば、【인형】(人形)、【하늘】(空)、【있다】(ある)、【하다】(する)といった名詞や動詞などの単語は、それだけで意味が成り立ちます。このようなものを 「実質形態素」 と言います。

 

一方、【-은/는】(~は)、【-이/가】に代表される助詞などはこれだけで意味が成り立ちません。

 

【맛없다】が[마덥따] になる理屈

先ほどの、第15項の内容「パッチムの後に母音で始まる実質形態素が続く場合、パッチムは代表音に変え、連音化して発音する」 が【맛없다】にどのように適用されているのか見ていきましょう。

【맛】の後に【없다】が来ています。

【없다】は、母音で始まっています。

【없다】は、「ない」という意味で、きちんとこれだけで意味が成り立つ単語(=実質形態素、自立語)です。

→パッチム【ㅅ】の代表音[ㄷ]に変えて、連音化させて、[마덥따]になります。

 

※【맛없다】には、濃音化も起きています。

濃音化とは、代表音[ㄱ][ㄷ][ㅂ]で発音されるパッチムの後に、 【ㄱ】【ㄷ】【ㅂ】【ㅅ】【ㅈ】 が続くと、濃音化してそれぞれ[ㄲ][ㄸ][ㅃ][ㅆ][ㅉ]になるというルールです。[마덥]ではなく、[마덥]になります。

 

【맛있다】も[마딛따]が正しい!?

ここで、あれっと思いますよね?

 

【맛있다】だって、同じルールが当てはまるんです。

 

【맛】の後に【있다】が来ています。

【있다】は、母音で始まっています。

【있다】は、「ある」という意味で、きちんとこれだけで意味が成り立つ単語です。

 

なので、パッチム【ㅅ】の代表音[ㄷ]に変えて、連音化させます。

さらに、濃音化が起こり、最終的に[마딛따]になるべきなのです。

 

実は、先ほどの第15項には、但し書きとしてこう書かれています。

 

「【맛있다】は、[마싣따]と発音することもできる」

 

つまり、【맛있다】の発音は本来は、 [마딛따]  が正しいのです。

 

でも、現在、慣例的に多くの人が[마싣따]と発音しているので [마싣따]も許容するという見解なんだそうです。

 

びっくりですが、【맛있다】[마싣따]という発音は、実は特別扱いで、【맛없다】[마덥따]の方が、規則通りだった、ということなんです。

代表音で発音しないケース

発音に関して、ある生徒さんが、こんなするどい質問をされました。

 

「【맛없다】は、[마덥다]になるのに、なんで【옷은】(服は)、【옷이】(服が)は、そのまま[오슨][오시]と言う発音になるのか?」

 

と。

たしかに、 【옷은】【옷이】 もパッチムの後に母音がきています。見た目的には 【맛없다】 と同じです。

でも、大きな違いあります。

 

それは、【없다】が実質形態素(実質的に意味がありそれだけで成り立つ単語)であるのに対して、 【-은】【-이】 は、そうではありません。

 

このような場合には、パッチムの代表音に変えずただ連音化をして発音します。

パッチムの代表音に変えて連音化するのは、あくまでも「パッチムの後に続くのが母音であり、実質的意味がある単語」である時に限ります。

他の例でも見てみましょう。

【앞으로】(これから)の発音は[아프로]です。

【밭에】(畑に) の発音は[바테]です。

【꽃을】(花を) の発音は[꼬츨]です。

上のどのケースも、パッチムの後に続く単語が実質的意味がないものばかりなので、パッチムは代表音に変わらずそのまま連音化しています。

 

かなりややこしい内容でしたが、以上、【맛없다】の発音についてでした。

実は、【맛있다】の方が例外的だったことをわかってもらえたら嬉しいです。