夫の仕事では時々、泊まりがけの出張が入ることがある。

 

朝から駅へ向かう日は、私も見送りがてら付いて行っている。

駅までではなく、その途中の大きな道に出るまでの間だけ。 夫の出張用バッグを私の自転車カゴに乗せて、隣を走る。

 

頼まれたわけでもないし、来なくていいとも言われているが、なんとなく習慣でそうしている。

 

大通り越しに「行ってらっしゃ〜い」と見送る様子はさながら、部活へ行く男子高校生と、過保護なその母親、という感じ。

 

 

 「夫の荷物を持ち、付いて歩く」というこの習慣がいつから生まれたかといえば、なんと今から20年も昔。

 

39才の私がまだハタチで、同じくハタチだった夫とお付き合いしていた頃にまで遡る。

 

 

 

 

 

 

若かりし頃の夫は、カメラが趣味だった。

よく風景写真を撮っていて、 カメラは一台じゃなくて、二台持ち歩いていた。

今のようなデジカメではない、ものすごく重いフィルムカメラだ。

 

これを私は自分の自転車カゴに積み、自由気ままに撮影して歩く夫の後ろをひたすら付いて歩いた。

 

これが当時の私たちの、定番デートだった。

 

 

私は田舎から出てきたばかりの大学生で、おしゃれな服屋さんにも、 買い物にも慣れていなかった。

 

とにかく外をぶらぶら歩き、腹が減ったらその辺のラーメン屋に入る、とそんなデートが一番気楽で、私は荷物を持って付いて歩くだけだけどすごく楽しかった。

 

 

 

 

20年前の、その荷物持ちの習慣が、私の中でいまだに続いている。

 

 

私がこの世に生まれた理由は恐らく、息子を出産するためと、夫の荷物を運ぶためだ。

 

 

夫は無口で、今自分がどんな重荷を背負っているか、たとえばどんな大変な仕事を抱えているかというようなことも、家ではまったく話そうとしない。

 

だからせめて目に見える小さな荷物くらいは、私が持って運ぼうと思っている。

 

一家の大黒柱も住宅ローンの名義人もちょっと代わってあげられそうにないけれど、出張バッグひとつ持つくらいなら私にもできる。

 

たったそれだけでも荷が減れば、夫だって、少しはラクに生きられるかもしれないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※本日4月21日は、

私たち夫婦が結婚式を挙げた日です。

我ながら美しい花嫁でした。

 

本当ですよ?

 

 

 

 

 

 

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