せつない恋のはなし



$せつない恋のはなし  

 人の心を読む能力を持つ高校生・彼方。それ故に心を閉ざす                          

 彼方が、新しい出会いや人の心に触れることで変わっていく

                         

 青春・友情・恋愛の物語。現在更新中です。


せつない恋のはなし

真面目な純情高校生・笠井純平は、ツンデレな同級生に

優しくされたことがきっかけで恋心??を抱くように。。。

しかし問題はその恋の相手はオトコだということ。

自分がヘンタイかもしれないと苦悩しながらも消せない恋心に翻弄されちゃう純平。


「いつか、この空の下で」 のサイドストーリー。



$せつない恋のはなし
 

過去に恋人を亡くし、それ以来心を閉ざしている元ピアニスト・遠藤塔子。                           

過去に塔子のピアノに心を救われたと言う高校生・ハル。                            

2人は塔子の勤める図書館で偶然出会い、純粋に思いを伝えるハルに、 

塔子は少しずつ心を開き始めるが、ハルには重大な障害があって・・・・・


歳の差 純愛ラブストーリー。(全243話完結)




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ユメノアトサキ #40



暖かい風が吹いた。



オープンテラスのずっと向こうに並ぶ桜の木からだろう


桃色の花びらが一枚、ひらりと白いテーブルの上に舞い降りた。





「ああ、ハルくんはね」





――――塔子さん





呼ばれた気がして、カフェの入口の方に視線を向ける。








「……あ」



気のせいじゃなかった。



目に映るその姿に、少し驚きながらも手を振った。



「あれ、もしかして、奥山くんですか?」



カフェの店内に入り、少し離れたこのオープンテラススペースへとゆっくり


歩いてくる人物を見て、加藤くんが戸惑い気味に聞いてくる。



「そうだよ。彼、今日大学の入学式だったの」



濃紺のスーツに桜色のネクタイ姿の彼は、いつもより随分と大人びて見えて


私も一瞬、加藤くんと同様に、それがハルなのか目を疑うくらいだった。



「大学。そっか、そうなんだ。……そっか」



独り言みたいに微笑みながらそう言った加藤くんは、涙を堪えるみたいに唇を噛んだ。



「……加藤くん?」



「良かったね、遠藤さん。ホント、良かった」



「うん。――――ありがとう」



加藤くんが今、どんな気持ちで


会わなくなってからも、


私たちの未来を心配していてくれたんだということが伝わってくる。





あれからもちゃんと繋がっていた私たちの未来。


それを加藤くんに報告できてよかったと、心から思った。




左半身の麻痺は随分良くなったとはいえ、まだ歩き方がぎこちないけれど


しっかりとした足取りで私たちの方へと歩いてくるハルを


私と加藤くんは椅子から立ち上がって待った。



「駐車場で車は見つけたんだけどいなかったから、まだ中にいるのかなって思って


 捜してたんだ。……あ、こんにちは」



私たちの前までたどり着いたハルは、私にそう言いながら、テーブルを挟んで立ち、


自分を潤んだ目で見つめている加藤くんに気付いて、何故か不機嫌そうに挨拶をした。




「久しぶりだね、奥山くん」



自分の名前を呼んだ加藤くんに、一瞬戸惑った顔をしたハルだったけど


次の瞬間 「あ」 って言って、途端不機嫌そうな顔が驚きの表情に変わった。




「もしかして、加藤さんですか?ああ、そうだ、加藤さんだ。お久しぶりです」



「え、もしかして奥山くん、僕のこと完全に忘れてたとか?」



「はい、すいません。完全忘れてました。で、オレの彼女と何勝手に喋ってんだよって


 ムカつきました」



「え、もしかして僕は殴られるところだったのかな」



と冗談めかして加藤くんが笑って、私とハルも笑顔になった。



「待ち合わせの時間、まだだったよね」



もう一度時計を確認してハルに問いかける。


今日、ハルが入学式を終えたあと、この施設の駐車場で待ち合わせをしていた。




「うん。入学式、思ってたより早く終わってさ、ひとつ早いバスに乗れそうだったから


 急いで大学出てギリギリで間に合ったんだ」




「あんまり無理しちゃだめだって言ってるのに」



「このくらい無理でもなんでもないよ。


ていうか、少しでも早く塔子さんに会いたかったし」




「……もう」



さりげなく左手を握られて、ドキっとする。



ダメだな。


付き合い始めてもう2年半以上経つのに


私は今だにハルに触れられると鼓動が高鳴ってしまう。




「あのー、ちょっといいかな」



何故か困った顔をした加藤くんが


椅子に置いていた私のカバンを指差している。



「ケータイ、遠藤さんのじゃないかな、鳴ってるよ」


確かに、微かに携帯電話の呼び出し音が流れている。


「あ、ホントだ」



急いでカバンのサイドポケットから携帯電話を取り出し、画面を確認すると


さっき挨拶したばかりの相田さんからの着信で


電話に出ると、資料室の鍵を持ったままじゃないかという確認の電話だった。



慌ててポケットを探ると、


いつもの癖で使った後ポケットに突っ込んだままになっていた鍵が


指先に触れた。



「あ、ありました、すいません。すぐに返しに伺います。


 いえ、まだ館内にいますので」



早々に電話を切り、立ったままの2人に慌ててそのことを告げる。



「じゃあ、ここで待ってるよ」



くすくすと笑いながら、ハルが言う。



「ゴメンね、すぐ戻るから。あ、加藤くんも」



「ああ、はい」



カバンを持ち、急いで図書館に戻ろうと歩きだそうとして


ちょうど水を運んできてウエイトレスとぶつかりそうになった。



「あっ、ゴメンなさいっ」


よろけた私の腕を、ハルがきゅっと掴む。




「そんなに慌てるとまた転んじゃうよ。塔子さん、あわてんぼうなんだから」



ハルは水をこぼしそうになったウエイトレスに謝ってから


私に振り向いて微笑みながらも窘めた。



「また転ぶって…そんな、いつも私が転びまくってるみたいに」



「でも、そそっかしいのは認めるだろ?」



「……うん」



「慌てなくても時間はたくさんあるんだから」






そうだよね。


私たちには時間がたくさんある。





かつては言いたくても言えなかった言葉に


私は頷き、改めて



「じゃあ、行ってくるね」




二人をその場に残し、ひとり図書館へと向かった。







⇒ユメノアトサキ ♯41



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