せつない恋のはなし -4ページ目

ユメノアトサキ #37

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***




 ねえ、塔子さん。



 今でもオレは あなたの中に ちゃんといますか。



 ちゃんと 笑ってますか。




 塔子さんも、オレが隣にいたときと同じように 笑ってますか。





 オレはもう


 塔子さんに 何もしてあげられないかもしれない。



 だけど



 これだけは 信じて欲しいんだ。




 ホントに プロポーズするつもりだったんだよ。



 約束するのは嫌いだけど 約束破るのは もっと嫌いだって


 知ってるよね。





 いつか



 塔子さんの隣でえらそーに 仕事の愚痴なんか言って


 塔子さんの作った料理を 「食べすぎだよ」 なんて怒られながら食べて


 つまんないことで 喧嘩して それでもすぐに仲直りして


 一緒に笑ってる



 小さな部屋の中にはいつも 


 塔子さんの奏でる ピアノの音があって。



 毎日 平凡だけど 幸せだねって 笑い合ってたいたかったんだ。




 そんな未来が必ず来るって、最期まで信じてたんだ。






 ごめんね。








 こんなオレの わがままな思いに付き合ってくれて アリガトウ。






 塔子さんとの約束を守れなかったんだから



 オレのことは 忘れていいよ。



 オレは 塔子さんを幸せにしたいから。



 オレが幸せにしたかったけど できなかったから



 ホントに 塔子さんの事を大切にしてくれる人と 幸せになってね。




 ああ、でも一つだけ お願いしてもいいかな。




 時々でいいから。 



 オレの事思い出して欲しいな。




 そうだ。



 ピアノを弾いてるとき。



 

 一瞬でいいよ  思い出して。





 いつだって あなたをこの世界で一番好きでいる オレがいたこと



 

 

 いつだって オレは




 一番 塔子さんが好きだよ






 

 離れても、その気持ちは変わらないから。


 会えなくても、遠いどこかからずっと


 塔子さんの幸せだけを祈ってるから。


 

 これからもずっと、塔子さんを好きでいることを許してください。


 塔子さんが他の誰かと幸せになっても



 オレはずっと、ずっと、塔子さんに片思いし続けてもいいよね。




 最後までガキでゴメン。





 大好きです。





              奥山 ハル



***



読みかけだったハルのノートの最後のページ。



読むつもりはなかったんだけど


新しい仕事に活用したいと、ピアノ室に溜め込んでいた楽譜を整理していて


楽譜の間にしまっておいた空色のノートを見つけてしまって


手に取ってたらつい懐かしくなって、表紙をめくってしまった。




結局途中までしか読めてなかった、ハルの


私への想いがいっぱいつまったノート。



最後のページにも思っていたとおり、私への気持ちと願いが溢れていた。








ふっと、笑みが溢れる。


もしも、自分がいなくなったとしても


私のことをずっと好きでいてくれるつもりだったんだね。




片思いって。


私がかつて、昴を亡くした後のように


新しい誰かと、新しい幸せを望めなくならないようにってことだよね。



やっぱり優しいね、ハルくん。



思えば今から3年前、図書館で偶然再会したときからずっと


あなたは変わらず優しかった。


強くて、優しくて。


9つも年下なのに、私なんかよりずっと大人だった。


今日と同じように、春の暖かい日


図書館で出会ったときのことを懐かしく思い出し


幸せだけど、苦しかったあの頃を振り返ると


少しだけ胸がきゅっと痛んだ。






「塔子、もう時間じゃないの?遅れるわよ」



開けっ放しだったピアノ室のドアの向こうから


お母さんの声が聞こえた。


「はーい」


返事を返しつつ、手にしていた空色のノートをどうしようかと


少し迷った挙句、古い楽譜と一緒に大きめのバッグに大切に入れた。




「……怒っちゃうかな」



呟き、勝手に緩む頬。


ふと、腕時計に目をやると、家を出ようと思っていた時間から既に5分が過ぎていた。



「いっけない。急がなきゃ」



慌ててバッグを抱え、ピアノ室を出ると


急いで駐車場に停めてある自分の車に飛び乗った。








春。


満開の桜が、町並みを抜ける道路脇にちらほらと見える。




車を走らせ、私は明日からお世話になる楽器店へと向かっていた。







ピアノ教室の先生。



それが私の明日からの仕事。










⇒ユメノアトサキ #38






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補足です:文中には書いてあるのですが、時系列的には前話から2年後になっておりますw

       (二人が図書館で再会してから3年後なので)

       分かりにくかったらアレなので一応解説しておきますwww