「テレビの中に入りたい」
を観てきました。Fan’s Voiceさんの独占試写会が当たり観せていただきました。(@fansvoicejp)
ストーリーは、
中1のオーウェンにとってテレビ番組「ピンク・オペーク」は、現実を忘れさせてくれる唯一の番組だった。オーウェンと同じく番組に夢中なマディとともに、登場人物と自分たちを重ね合わせていく。ある日、マディは突然失踪してしまい、ひとり残されたオーウェンは身動きが取れないまま、時間だけが過ぎていく。
というお話です。
1996年、中1のオーウェンはある日眠れずにたまたま「ピンク・オペーク」というドラマを少し見て衝撃を受ける。次の日、母に連れられて選挙の投票に学校へ行くと、そこで「ピンク・オペーク」の公式解説本を読んでいるマディに出会う。
中3のマディに入れ知恵され「ピンク・オペーク」を見るために”友達の家に泊まりに行く”と母親に嘘を言って土曜日にマディの家に行き、一緒にドラマを観ることが出来た。しかし毎週は行けずオーウェンの家は10時15分が就寝時間と決められていたので、マディがビデオ録画をしてくれて見ることが出来た。
2年後、ピンク・オペークを二人で観ているとマディが家出をしたいと言い出す。オーウェンも誘うが彼は躊躇する。しばらくしてオーウェンの母親が病気で亡くなり、マディも失踪してしまう。そしてピンク・オペークはシーズン5で打ち切りに。
8年後の2006年、オーウェンは父親と暮らしており、地元の映画館で働いていた。すると突然マディが現れ、オーウェンにピンク・オペークの内容を憶えているかと問いかける。覚えていたハズなのによく思い出せず、再視聴するとその世界に飲み込まれてしまい…。後は、映画を観てくださいね。
この映画、スリラー映画とは書いてあるけどなんて言うのかな、私にはデヴィッド・リンチ系の映画っぽく見えたんです。「マルホランド・ドライブ」とか、「アンダー・ザ・シルバーレイク」とか、不思議系なんですよ。でもちょっと違うのは内に籠るタイプって感じかしら。ガンガン前に出て謎を解明しようとするのではなく、謎から逃げよう逃げようとするんです。映画の後のトークショーでもお話されていましたが、弱いタイプの人のお話って感じでした。
簡単に言うと「ピンク・オペーク」というドラマに影響されてしまったオーウェンという男の子の半生が描かれていきます。1996年から大体30年くらいかな。中学1年の時にドラマを知って、マディという同じドラマのファンの子と知り合い、その世界にのめり込んでいきます。
そのドラマとは女子のバディもので、超能力で離れていても意思の疎通が出来るイザベラとタラが共通の敵ミスターメランコリーを倒そうとするお話でした。どーも多次元モノでミステリー、ホラー、スリラーという感じだったかな。一応、子供向け番組なのですが、マディが言うには大人向けの設定がしてあるそうです。
そんなドラマに興味をもったオーウェンですが、家での就寝時間が10時ごろと決められていて、10時半から始まるドラマが観れないんです。なので泊まりに行って観るか、マディに録画して貰って観ていました。オーウェンの家は結構規則を決めているような家で、母親とオーウェンとあれは義父だったんじゃないかな。
オーウェンは完全に黒人だったけど、父親は白人だったので母親の再婚相手じゃないかと思いました。なので母親はオーウェンに何か望まれても”お父さんに聞きなさい。”と言っていました。雰囲気的には、両親ともオーウェンを愛していたように見えましたが、オーウェンは色々な思いがあったんじゃないかな。実は彼はノンバイナリーかトランスジェンダーの可能性が示唆されていました。言葉では出てきませんが女性の服を着て鏡を見ている場面があったんです。
そんな時に観始めたのが「ピンク・オペーク」というドラマです。大人になってからオーウェンが再視聴すると完全に子供番組で難しい精神世界なんて描いていないことが解るのですが、子供の頃の彼らにとって、その内容は想像が膨らみ肉付けされて、とても恐ろしいミステリーホラーになっていたんじゃないかと思うんです。
子供の妄想が膨らみ壮大なストーリーになっていて、オーウェンはその世界に取り込まれてしまい、物語と現実の区別がつかなくなっていってしまうんです。同じように一緒に観ていたマディも現実との区別がつかなくなり失踪してしまいます。但し、そう思っていたのはオーウェンだけで、本当は里親との関係で失踪したのだと思います。
マディは里親と上手く行っていなかったように見えました。もしかしたら性的虐待などを受けていたかもしれない。だから家を出たくてオーウェンを誘うのですが、オーウェンは拒否をしたので一人で消えたと思うんです。その後、何度かマディが現れますが、そのマディが本物かどうかは解りません。もしかしたらオーウェンの妄想の部分もあったかもしれない。
オーウェンは何年もかけて段々と壊れていきます。元々、弱い子だったのだと思います。中1で母親と一緒に大統領選挙に来ているというのも珍しいでしょ。13歳だったらあまり母親と二人で出かけたがらないでしょ。母親はオーウェンを溺愛している感じで過保護っぽかったんです。
しかし2年後の中3の時にオーウェンの母親が病気で亡くなり、同じ頃にマディも家出をしてしまいます。ここでドラマは打ち切りになったようで、オーウェンもドラマを観なくなったんじゃないかな。普通の生活をして23歳となり、街の映画館に勤めていたオーウェンの前に大人のマディが現れます。マディはオーウェンの2つ年上なので25歳くらいかな。
ここでマディはピンク・オペークを憶えているかとオーウェンに訪ねて、またも不安な感覚が蘇ってくるんです。でももしかしたら精神的に不安定になると、マディとピンク・オペークがオーウェンの前に出てくるのかもしれません。実際にはいなくても、見えていたのかもしれない。
子供の頃の義父との関係、母親の病気、マディとの関係などで不安になったあの時に観ていたピンク・オペーク。今回は社会に出て働いているけど義父と暮らしているし、独り立ち出来るのか不安になり、マディが目の前に現れたのかもしれないなと思いました。だって、この時のマディは不思議な現れ方だったんですもん。
オーウェンの不安時に必ず現れるピンク・オペーク。そして憶えている内容は実際のドラマとはかけ離れた内容なんです。マディが言うには、彼は心臓を取られて現実世界の冷蔵庫に入れられているので、今いる”真夜中の領域”の彼は胸を開けても心臓が無いんです。オーウェンはそれを確認してみたりするんですけどね。
思春期の時期に観たドラマが、精神的不安定になると現れて、現実から逃避してしまうということなのかなと思いました。誰だって逃げたくなるときはあるんだけど、その引き金となるのがピンク・オペークなのかもしれません。不安になりピンク・オペークとマディが見えて、もっと不安定になるという繰り返しかな。
面白い映画でした。私、こういうタイプの映画は大好物なんです。自分も迷宮に引き込まれたような気持ちになるこの感覚が好きなんです。どんなに前に進みたくても水の中でもがくだけで前に進めないという感じがイイんですよねぇ。
私はこの映画、超!超!お薦めしたいと思います。でも、これは好き嫌いが分かれる作品かと思われます。何か気持ち悪い感触だと思う方もいらっしゃるかもしれないので、もしこのタイプの映画が好きな方にはお薦めしたいかな。ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
P.S:邦題が”B級コメディ”っぽいですが、内容は素晴らしいです。原題も同じようなニュアンスなんですけどね。
「テレビの中に入りたい」