「国宝」
を観てきました。
ストーリーは、
極道の家に生まれた喜久雄は15歳の時に抗争で父を亡くし、上方歌舞伎の花井半二郎に引き取られる。歌舞伎の世界へ飛び込んだ喜久雄は半二郎の息子・俊介と兄弟のように育てられ、親友として、ライバルとして互いに高めあい、芸に青春を捧げていく。そんなある日、事故で入院した半二郎が自身の代役に俊介ではなく喜久雄を指名したことから、2人の運命は大きく揺るがされる。
というお話です。
任侠の一門に生まれた喜久雄。組長の父親が開いた新年会で、見様見真似で歌舞伎女形を演じてみた。その新年会にはちょうど興行で訪れていた花井半二郎が同席しており、底知れぬ喜久雄の可能性を見出していた。しかし新年会の途中で暴力団同士の抗争が始まり、組長は喜久雄の前で殺されてしまう。
しばらくして身寄りのなくなった喜久雄は上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎に引き取られることとなり、歌舞伎の世界へ飛び込むことに。そこで、半二郎の実の息子として、生まれながらに将来を約束された御曹司・俊介と出会う。
正反対の血筋を受け継ぎ、生い立ちも才能も異なる二人。ライバルとして互いに高め合い、芸に青春をささげていくのだが、多くの出会いと別れが、運命の歯車を大きく狂わせてゆく。ある時、半二郎が事故に遭い、自分の代役として喜久雄を指名したことから、俊介はその実力を正面から受け止めることとなり喜久雄と共に歌舞伎を演じることから逃げてしまう。
花井一門の跡継ぎとなった喜久雄だが、その心は晴れることは無い。それから10年後、半二郎が亡くなり、消えていた俊介が帰ってくる。そしてそれまでの不義理を詫びて花井一門を喜久雄を盛り上げていくことを約束するのだが…。後は、映画を観てくださいね。
話題の「国宝」観てきました。原作本も買ってあるのですが、どう考えても公開までに読み切ることが出来なさそうだったので、観てから読むことにしました。この作品、原作通りなのかしら。本当に素晴らしい映画になっていました。構成は喜久雄が歌舞伎界に入り、人間国宝になるまでの軌跡を描いている内容です。
人間国宝ってよく聞きますが、今一つ解らない存在です。素晴らしい芸や技術などを持っている方がなるのでしょうが、それが素晴らしいと国が認定した証が人間国宝なんだろうと思います。審議会とかが判定しているんだろうけど、何となく不思議な存在で身近には感じられません。それくらい孤高のモノなんだろうけどね。
私は歌舞伎の良し悪しは、歌舞伎をほとんど観たことが無いので解りませんが、吉沢さんと横浜さん、そして他の方々の舞台での歌舞伎の映像があまりにも美しくて迫力があって、それだけで息が付けなくなるほどに感動しました。素晴らしかったと思います。きっと歌舞伎を良くご存じの方は、鷺娘はこうで曽根崎心中はこうとか色々と決まり事があるのでしょうが、私はそういうことは解らないので、その美しさと迫力だけで圧倒されたという感じです。
ここまで美しくて艶めかしい女性を、俳優のお二人が稽古をして身に付けたというのは素晴らしいと思いました。お二人とも美しい顔をしているのは当たり前なんだけど、それ以上に艶めかしい女性に変身するんですよ。凄い努力をされたんだとおもうんですよねぇ。ここまでのレベルに持っていくって、並大抵の努力じゃないと思うんです。素晴らしかったです。
今どきの若い人は「努力」なんて、というかもしれないけど、いつの時代も努力って大切だと思うんです。努力しないと成功しないし、成功した人は努力したとは決して言わないよね。もしかしたら好きな事をやっているから努力とは感じていないのかもしれないけど。でもこの映画を観ていて、吉沢さんと横浜さんの努力が形になっていて、もうその美しさにひれ伏しましたもん。
内容も良いんです。どんな世界でも血筋ってあると思うんです。歌舞伎もそうですが、政治の世界、芸能の世界などなど、血筋が重要な世界は沢山あるんです。特に日本はそれが強いと思っています。まぁ、血筋というよりも、まだ意識が無いくらいから親の仕事を見ているから、普通の人よりも目は肥えるし、何が良いかも身体で覚えているから上手くなるという経験なのかな。
でも、途中から入ってきた人でも才能のある人はいると思うんです。それは血筋というよりも天才というやつですね。なのでどんな世界でも、必ずある程度は外から才能のある人間を入れて、血の浄化をしていくべきだと思うんです。でないと血もドロドロになっちゃうでしょ。今のところ、政治はそれが全く出来ていないですよね。
歌舞伎界はどうなのかしら。芸能界も二世タレントが増えていますが、上手い人だけが残って、下手な二世タレントは消えていますよね。芸の世界は厳しいので、下手だと”なーんだ”って思って観なくなるんだと思うんです。いくら七光りがあったとしても、実力が追いつかないと誰も相手にしませんよ。芸能タレントはとても解りやすいので、上手い人しか残らないのでしょう。歌舞伎は難しいから一般の人は指摘しにくい世界ですよね。うーん。
内容に戻りますが、御曹司・俊介と養子・喜久雄がライバルとして舞台に立っているんだけど、喜久雄が上手いんです。最初はお互いに切磋琢磨して頑張っているんだけど、ある舞台を観て、その技量の差を俊介が解ってしまうんですよね。自分は跡継ぎとして生まれたのに、喜久雄の方が上手いと解ってしまったら、そこには居られないでしょ。居たら下手な自分の方が跡継ぎになってしまう。身を引くという判断が心に響きました。
あ、でもここまでで半分くらいのお話です。まだまだ先があるので、これはネタバレじゃないと思っています。だって、歌舞伎の世界は後を継いだら勝ち組となるとは限りませんから。ここら辺が凄いですよね。ニュースなどで襲名披露と聞きますが、襲名したからって成功するとは限らないんです。芸を磨いて、その名前に相応しいと思って貰えなければいけない。大変なんです。
なので、この後も長く話が続くのですが、どんな展開になるのかは映画で確認してください。凄いですよ。3時間もあるのに、全くボヤボヤしている時間はありませんでした。そうそう喜久雄と俊介を最初から最後までずーっと見守る人物として何人かいるのですが、歌舞伎の興行を手掛ける三友の社員・竹野を三浦さんが演じています。歌舞伎を外から支える人物の冷静な目線が、観ているこちらに色々な事を気づかせる起点となっていました。
通常、物語だと舞台で倒れて感動的に終わるけど、竹野の目線が入るから舞台に穴は空けられないとか、興行主としての判断が入ってきて、一つの舞台が上がるとこれほどの人々に影響が出ていて、簡単に休みたいなんていうことが出来ないのがよく解るんです。それくらい、歌舞伎には人の手とお金がかかってきているという事が解るんです。それが上手いなぁと思いました。
歌舞伎女形人間国宝の万菊(田中泯さん)という役者が出てきて、喜久雄と俊介に女形を教えてくれるのですが、彼が奇麗なモノばかりを見てきたので、汚いモノがある場所が落ち着くというセリフがあるんです。人間国宝は美しいものを人々に見せてこそで、自分の周りには美しいものしか置けなかったけど、せめて休む時には普通の質素なもので囲まれていたいという気持ち。背伸びしたくない、周りに何もない生まれた時のままのような気持ちで休みたいという気持ちが伝わってきて、人間国宝の苦労が伝わってきました。
それで思い出したのですが、吉田戦車さんの”伝染るんです””戦え軍人くん”のどちらかの漫画で人間国宝というのがあって、ある部屋に人間国宝が座っている(飾ってある)んだけど、そこへ家主らしき人が来て「辛いか?」と聞くとコクンと頷くというだけの内容だったんです。それを思い出してジーンとしてしまいました。どこかからあの漫画を探し出さなきゃ。
あー、ダメだ。あまりにも良い映画だったので、永遠に感想を書いていけてしまう。ここら辺で辞めておきます。素晴らしく美しく感動的な映画だという事は伝わったかしら。ネタバレはしていないので安心してください。もっともっと深い内容があるんだけど、それは映画で確認してくださいね。驚くような展開が沢山ありますので。
私はこの映画、超!超!超!お薦めしたいと思います。本当に久しぶりに満点のお薦めです。一つのことを極めるという事とはどういうことなのか伝わってきました。李相日監督の「流浪の月」も凄く感動したけど、今回はじんわり涙が伝わるような映画でした。喜久雄の辛さ俊介の辛さが伝わってきて、歌舞伎の世界で生きることの苦しさと幸せを存分に感じることが出来ました。凄い世界です。ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
P.S:この映画、凄く美しいのでIMAXとかで上映しないのかしら。映像が素晴らしいんですけど、通常上映だけなんですよね。ちょっと良い映像で観てみたいかなと思いました。
「国宝」