「ルノワール」
を観てきました。舞台挨拶付きジャパンプレミアが、Fan’s Voiceさん枠で当たり観せていただきました。(@fansvoicejp)
ストーリーは、
1980年代後半。11歳の少女フキは両親と3人で暮らしている。そんなフキにとって、ときどき覗き見る大人の世界は、どこか滑稽で刺激的だった。しかし、闘病中の父と、仕事に追われる母の間にはいつしか大きな溝が生まれていき、フキの日常も否応なしに揺らいでいく。
というお話です。
日本がバブル経済絶頂期にあった、1980年代のある夏。小学校5年生の11歳のフキは、両親と3人で郊外に暮らしていた。大人たちを戸惑わせるほどの豊かな感受性をもつフキは、学校の作文で「孤児になりたい」と書き、担任が母親を呼んで注意をしたのだが、母親の詩子はそれくらいの事でと取り合っていなかった。
ある日、父親が家で吐血し救急車で運ばれる。父の圭司はガンで既に末期となっていた。もう病院で受けられる治療は無く、自宅で療養をしていたのだが、仕事もしている詩子は介護との両立に音を上げてしまい、病院で介護をして貰うことになる。フキは父親の病室の窓にリボンを結び、いつでも父親のいる場所が解るようにしていた。
父は病に倒れ、母は仕事で忙しくしており、フキは寂しい夏休みを送っていた。ときどき垣間見る大人の世界は複雑な事情が絡み合い、どこか滑稽で刺激的に見える。大人は”子供だから”とフキのことを気にしていないが、フキはしっかりと色々な事を理解しており、その目には大人のドロドロした部分が写っていた。
闘病中の父と仕事に追われる母の間にはいつしか大きな溝が生まれ、フキの日常も否応なしに揺らぎ始める。その寂しさから「伝言ダイヤル」という”出会い系まがい”を使い、フキをかまってくれる人と出会うのだが…。後は、映画を観てくださいね。
先日、カンヌ国際映画祭のコンペティションに選ばれ上映されたこの映画「ルノワール」、深い映画でした。ある11歳の少女の日常を描いているだけなのですが、その日常には、病気の父親、仕事と介護に追われる母親、そして治療と称して詐欺まがいの薬や療法を勧める怪しげな人々が登場します。
いつも一人で寂しく過ごしているフキは、愛情を得るために怪しげな伝言ダイヤルにハマっていきます。最初、”伝言ダイヤル”って何だろうと不思議に思いましたが、観ていたら出会い系サイトやSNSのようなモノで、伝言BOXに好みのタイプなどと直接話をしたいと吹き込んで入れておくと、話したい相手と繋がるらしいのですが、今一つ、仕組みが解りませんでした。
携帯が無い時代に自宅の電話を教え合って、会った事もない人と声だけで仲良くなり、それから会うって、凄く斬新でした。自宅の電話を教えたら家に来られちゃうんじゃないかとか、凄く怖いけど、その時代はまだインターネットも普及していないから、そう簡単に住所が解らなかったのかもしれませんね。でも、セキュリティとか考えると凄く怖いと思いました。
フキは、両親とも家に居ないことが多く、それこそ”しつけ”的な事もあまりされていないようだったので、はっきり言ってマナーの無い子で、性格もあまり良くなさそうでした。食卓の上に平気で履いていた靴下を置くし、人の家を物色するし、11歳にしては常識的な事が出来ていないように見えました。半面、大人の汚い部分を沢山目にして、大人への反発で嫌がらせ的な事をしているようにも見えました。
この年代の子供には、しっかりと常識やマナーを教え込まなければいけませんよね。でないと社会に出てから相手にされなくなるので、せめて中学までには常識的な事は教えるべきだと思います。食卓に汚い靴下を脱いで置くなんて、私はゾッとしました。直ぐにその家の方がビニール袋を持ってきて、それに靴下を入れてフキに渡したのでホッとしました。
最初はちょっと障害のあるボーダーラインの子かと思ったのですが違いました。普通の子なんだけど、親の愛情と教育が行き届いていなくてそんな態度だったのだと解りました。きっとこれから母親に色々と教わって行けば、普通に中学、高校と通えるんじゃないかな。このまま成長したら、ちょっといじめられっ子になりそうな子でした。
フキは、あまり人の話は聞いていなさそうな子です。一見、とてもドライな考え方の子供に見えるのですが、本当は親にかまって欲しくて、愛して欲しくて、もっと一緒に過ごして欲しかったのだと思います。それが叶わないから、変な伝言ダイヤルに電話をしたり、母親の不倫相手を無言で睨みつけていたり、親から見ると不審な行動なんだけど、フキにしてみれば必死の抵抗だったのだと思います。
そしてきっと、お父さんが大好きだったんじゃないかな。どんどん酷い状態になって行く父親を見ても、全く泣いたりしなくて、ただ見つめているだけだったけど、必死でお父さんのことを思っていたんだと思うんです。ただただ、生きて一緒にいて欲しかったんだと思います。フキはあまり話さない設定でしたが、その目力で語っていたと思いました。
フキ役の鈴木さん、カンヌでは「注目すべき10人の才能」に選ばれたそうですが、映画の中では目力が凄かった。セリフはとても少ない役でいつもボーっと突っ立っているように見えるのですが、その場面場面で顔の表情が違って、真っすぐに見つめてくる目が凄いんです。ニュータイプかっ!って言ってしまいそうになるほど、まるでこちらの心をお見通しのようで、末恐ろしい子だと思いました。
父親圭司役のリリーさんさすがです。これ、リリーさんと石田さんの両親が凄く良いんです。年を取って、もうお互いにそれほど相手のことを思っていないように見えて、それでもしっかりと夫婦の絆は残っていたのだと思いました。でないと最後まで看取るなんて出来ませんよ。お互いに文句を言い合っていても、心は繋がっていたのだと思います。恋人ではないけど家族なんです。そんなことが観て取れました。
他の方々もそれぞれの役目があるんだけど、それを書いちゃうとネタバレになるので書きません。皆さん、思っていたよりも少ない出演ですが、重要な役を演じているので、それぞれに感動してくださいね。坂東さんが演じている役は、結構、私には衝撃的でした。こういう人、いたんでしょうね。うーん、怖いです。
この映画、ほとんど説明が無いので、映画を観て、その人物の表情や態度で起こっていることを察していかないといけません。なので、解りやすいアクションヒーロー映画とは違うのだと解って観に行って欲しいです。でないと???となるかもしれません。
最後に”ルノワール”という題名ですが、映画の中にルノワールの「イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢」の絵が出てきます。フキが気に入って父親の病室に飾るのですが、監督のお話では、ルノワールの絵の明暗が、人々の明暗とリンクしているのではと観客の方に言われましたとおっしゃっていました。美しく涼しい顔をしながらも、その影には沢山の異形が隠れているのかもしれません。
私はこの映画、超!お薦めしたいと思います。きっと2回目も観たら、超がもう一つ付くかもしれません。1回目だとサラッとしか理解出来ていないので、2回目を観たら深い部分の描写が心に響いてきそうな気がします。公開されたらまた観に行こうと思います。ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「ルノワール」