「奇麗な、悪」一人芝居でこれほどに感情を揺さぶられる作品は珍しいです。本当に綺麗な映画でした。 | ゆきがめのシネマ。劇場に映画を観に行こっ!!

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観てきた映画、全部、語っちゃいます!ほとんど1日に1本は観ているかな。映画祭も大好きで色々な映画祭に参加してみてます。最近は、演劇も好きで、良く観に行っていますよ。お気軽にコメントしてください。
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「奇麗な、悪」

 

を観てきました。Fan’s Voiceさんの独占最速試写会に当選し、観せていただきました。(@fansvoicejp)

 

ストーリーは、

街の人混みのなかを、ふらふらと歩くひとりの女。やがて古びた洋館にたどり着いた彼女は、そこが以前に診てもらった精神科医院であることを思い出す。ひと気のない洋館の中に吸い込まれるように足を踏み入れ、以前と同じように患者用のリクライニングチェアに身を横たえた女は、自身の悲惨な人生について語りはじめる。
というお話です。

 

 

ひとりの女が街の人混みのなかを歩く、まるで糸の切れた風船のように。生きることすら危うさを感じるその女は一件の館にたどり着く。その館に表札は無く、人の気配がない。しかし女は何かに引かれるように玄関のドアノブを引く。


女は思い出す、以前に何回か訪ね診てもらった精神科医院だ。人の気配はないがドアは開く。静けさが待ち受けている。医師は今でもどこかにいるのか?女は部屋の空洞に吸い込まれるように中に入っていく。そして以前と同じ様に患者が座るリクライニングチェアに身を横たえる。

 


 

目の前にあるピエロの人形に見つめられているようだ。「火の、、、火の話から始めることにします」幼少の頃、カーテンに放った火で起こった事件から話し始める。以前に話したのかもしれないが、結婚したこと、夫の浮気、娘のことなど、長い長い話を続けていく。

 

少し暗くなり、ピエロの横にある蝋燭に火を灯してまた話し続ける。「今日は、全部話す」と決めたのだ。そして…。彼女は歩き続ける。建物の中での話は本当のことだったのかもしれないし、全て嘘だったのかもしれない。彼女にはそんなことはどうでも良いのだ。まだ見ていない世界が彼女の前に広がっているのだから。 後は、映画を観てくださいね。

 

 

この映画、凄かった。ここ最近、一気に長回しで撮影するという映画も何本かありましたが、これも長回しで撮っていて、主演の瀧内さんが原作小説の35ページくらいを全て暗記して一気にセリフとして話しているんです。それはそれは、もう、”凄い”としか言いようがないセリフ量で、それも感情が入って演技しているにも関わらず、一言一句原作の言葉をほとんど間違わずに話しているというのが、もう驚いてしまいました。

 

この主人公は、凄い人生を送ってきているんです。その壮絶な人生を精神科医院の建物の中で一人で話しているんです。きっと、若い頃に何度か通っていた精神科医だったんじゃないかな。その頃はきっと裕福で、幸せだったんだと思うんです。その後、夫の浮気やもろもろのことが起こり、この医院に通う事もなく、転げ落ちるように人生が展開していったんじゃないかしら。そして、何か酷いことが起こり、街を彷徨っていたらこの医院にたどり着いたのだと思うんです。

 

 

そして昔通っていたなと思い出し、入って椅子に座ってみたら、昔は見栄を張って本当の悩みを話せていなかった自分を思い出して、今こそ全部話してしまおうと思ったのかもしれない。もう、ここまで酷く落ちてしまったら、何も恥じることは無いし、これ以上、傷つくこともないと思ったんじゃないかな。それくらい、心にずっしりと抱えてここにたどり着いたような気がしました。

 

そして聞いてくれる人もいないけど、静かに過去を最初から話し出すんです。思うんだけど、最近って人の話を聞くことが無いですよね。電話で話すよりもメールが多いし、会議も減って通達が増えたんじゃないかな。文書で送ると一方的だから人の話を聞かなくなるんですよね。ということは話もしなくなっているんですよ。

 

一方的だと相手の考えが解らないから不安になるでしょ。精神的に不安定になるんです。だからカウンセリングとかが必要な人が増えているんだと思うけど、それなら無駄な会話をバンバンしていれば不安も消えるんじゃないかな。たとえ聞いてくれる人がそこに居なくても、一人で声を出して話すことで、再度頭の中で考えてそれまでの事を整理して納得するまで説明すればいいんです。自分で話して、自分が聞き役になることで、冷静になって落ち着いて考えることが出来たんじゃないかな。

 

 

そこに誰も居なくても、この彼女は自分が納得出来るまで話をして振り返ることで、辛かったことも乗り越えて、過去は過去だと切り捨てることが出来たのかなと思いました。きっと、あまりにも壮絶な出来事が続き、自分でもどうしようもなくてここにたどり着いたんじゃないかしら。そしてしあわせな時に来た場所を訪れることで、その時から今日までの辛かった出来事をギュッとまとめてポイッて捨てることにしたんじゃないかな。

 

誰でも辛いことがあって、それをずっと引きずって生きるしかないんだけど、あまりにも重くなってしまったらどこかに捨ててよいと思うのよ。簡単に捨てるなんて出来ないけど、声に出して話すことで少しは捨てられるでしょ。楽になるでしょ。そして新しい道を歩いていけばいいんです。

 

瀧内さんが演じる女性は、その辛い過去を苦しみながら吐き出して必死で平静を装っているけど、苦しさがにじみ出てくるんです。言葉の端々や態度に出てしまうけど、それを話し終えた時に、冷静に自分を見れたのかなと思いました。そして最後の強がりで「嘘なんだけど」って言ったんじゃないかな。

 

 

女性が女性であることによって苦しむ出来事って多いんです。今でも男が浮気するより女が浮気する方が悪い様に言われるし、レイプ被害やDVなどどうしても力の差で抗えないこともあるし、女であることが苦しみに繋がることがある。この女性もその被害者だと思うんです。もし男だったらこんなに苦しむことは無かったかもしれない。

 

でもね、この瀧内さんが演じてくださることによって、今更ガタガタ言ってもしょうがないから、過去は諦めて未来に希望を持とうという気持ちにさせてくれるんです。彼女の雰囲気の綺麗さで前を向けるんです。

 

この題名の「奇麗」の”奇”って、私が思うに奇妙とか奇怪とか珍しくてキレイという雰囲気があるんだけど、「綺麗」となるとそこに本当の美しさと潔癖さが出てくるような気がするんです。この映画で最初に女が出てきた時は「奇麗」なんだけど、最後に家を出て歩いて行く時は「綺麗」なんですよ。同じキレイなんだけど、感じ方が変わるんです。この奇麗は瀧内さんの一人芝居によって綺麗に変わるんです。それが本当に素晴らしいと思いました。

 

 

そんな瀧内さんを映画に納められた奥山監督は素晴らしいです。こんな風な映画もあるんだと驚きました。最初から最後まで、本当に綺麗なんです。そして一人芝居の素晴らしさを改めて感じました。舞台では何度か色々な方の一人芝居を観ていますが、映画でこんな風な一人芝居は初めて観ました。素敵です。瀧内さん、この作品を一人舞台としてやってくださったら、みんな観に行くと思います。凄いセリフ量だから大変だと思うけど。

 

試写の後に奥山監督のお話があり、色々なお話をしてくださいました。北野武監督をデビューさせたのも奥山さんだし、藤井道人監督もそうだし、そのデビュー秘話などもお話してくださって楽しめました。また江戸川乱歩の「人間椅子」などの映画も作りたいとおっしゃっていて、凄く楽しみです。

 

乱歩と言えば「人間椅子」や「パノラマ島奇談」も良いけど、「孤島の鬼」が映画化されたら面白いだろうなぁと思います。同性愛なども盛り込まれていて現代に合いそうですもん。

 

 

話が反れましたが、この映画、私は超!超!お薦めしたいと思います。美しい映画が観たいと思ったら、この映画を観るべきだと思いました。演技も素晴らしいですが、映像も素晴らしいです。構成も映像も光も、全てが計算されているようで、絵が美しいんです。宣伝費が無いとのことで、全然宣伝がされていませんが、「侍タイムスリッパー」と一緒で口コミで広がって欲しい。美しいモノが観たいと思ったらこの映画だと思いますよ。ぜひ、観に行ってみてください。

ぜひ、楽しんできてくださいね。カメ

 

 

「奇麗な、悪」