「ブルータリスト」
を観てきました。日本最速試写会にFan’s Voiceさん枠で当選し、観せていただきました。(@fansvoicejp)
ストーリーは、
ハンガリー系ユダヤ人の建築家ラースロー・トートはホロコーストを生き延びるが、妻エルジェーベトや姪ジョーフィアと強制的に引き離されてしまう。アメリカのペンシルベニアに移住した彼は実業家ハリソンと出会い、建築家としての実績を知ったハリソンはコミュニティセンター複合施設をラースローに依頼するのだが。
というお話です。
ハンガリー系ユダヤ人の建築家ラースロー・トートは第2次世界大戦下でダッハウ強制収容所に送られた後、妻エルジェーベトや姪ジョーフィアと強制的に引き離されてしまう。
安住の地を求めるラースローは、従兄弟のアッティラと、アッティラのカトリック教徒の妻オードリーを頼って米国のペンシルバニアに移住し、妻と姪を待つつもりだった。
1947年、ラースローはアッティラの会社で裕福な実業家ハリソンの書斎をリフォームして欲しいと彼の息子ハリーから依頼され引き受ける。しかし息子のサプライズだったらしくハリソン本人が激怒し、報酬も貰えず、アッティラは怒ってラースローをほおりだす。
1950年、浮浪者同然で暮らしていたラースローをハリソンが訪ねてきて有名な建築家だったことを知り設計を頼みたいという。コミュニティセンター複合施設を作りたいと言い、設計を頼みたいという。そしてラースローの家族も弁護士を使って早く呼び寄せられるようにすると言ってくれる。
1953年、ラースローの妻エルジェーベトと姪ゾフィアがペンシルヴァニアに到着するが、妻は収容所での影響で車椅子を使っており、ゾフィアは話すことが出来なくなっていた。再会を喜ぶ2人だったが、一方、複合施設プロジェクトは資材を運ぶ列車の事故により、暗礁に乗り上げていた。後は、映画を観てくださいね。
この映画、なんたって215分という長さなので、100分やって15分休んでまた100分という形で上映されます。もちろんストーリーも長いので、私が書いたあらすじは半分にもいかないくらいの部分です。長い作品なのですが内容は濃くて、ラースロー・トートという建築家の自伝的映画です。
彼はハンガリーに生まれたユダヤ人でバウハウスで学び、有名建築家としてヨーロッパで活躍していた方です。戦争により強制収容所に入れられ、家族と引き離されてアメリカに渡ってきました。アメリカでまた建築家として活躍するつもりで来たのだと思いますが、そう簡単にはいきません。
現代なら自分が作った建築物の写真などを持って営業に周ることで少しづつでも仕事が入ってくると思うのですが、戦後ですし、既に経済界と繋がりのある建築家がいるのですから、そこに入っていくのは容易ではありません。それにこのラースローさん、口下手なのかな。営業に向いていないんです。
たまたま最初の仕事で出会ったハリソンに気に入られ、大きな仕事を貰うのですが、最初の出会いは最悪でしたね。でもリフォームした書斎のデザインは素敵でした。あれこそ書斎です。本棚には全て扉が付いていて、本が日に当たることはありません。日本のアホな建築家が本棚に燦々と日の光が当たってしまう図書館を作っていましたが、本好きからすると日に焼けてボロボロになってしまうので許せない設計です。建物の用途を勉強しない建築家は建築家ではないです。
ハリソンと出会い、コミュニティセンターを作ることになるのですが、図書館、劇場、体育館、礼拝堂を入れてという要望でした。大変そうに見えますが、敷地が広いのでなんてことないと思いました。礼拝堂のデザインが素敵だったな。予算があれば、広い部屋に高さも取れて、良くなりますよ。
でも建築費を抑えるために、途中で壁の高さを3m低くするとラースロー以外の建築家が口を出してくるんです。いやぁ、これは私なら許せないと思うし、ラースローも許していませんでしたね。これ絶対にやっちゃダメなヤツです。3mも壁低くしたら、天井が迫ってきて息苦しいでしょ~!それでも十分な天井高だろうけど、最初の設計でイメージ作ってるんだから、それは変えちゃダメでしょ~!平気でそういう事をいう建築家もアホな奴です。自分で設計していれば、その大切さは知っていなきゃおかしいんです。
ラースローは強制収容所でのトラウマから、コンクリートの狭くて冷たい空間の建物を作ったと言っていましたが、コミュニティセンターなのに強制収容所がモチーフなんて言わないで欲しいよねぇ。この”ブルータリズム”建築は、実用的で四角くて冷たい建物デザインなんですよね。バウハウスが提唱したものなんだろうけど、このデザインって男性の傲慢さが出ていると思うんです。
ブルータリズムは、シンプルで実用的、冷たくてスッキリというような雰囲気なのですが、通常、人が暮らす場所は温かい方が良いでしょ。建築は男社会なので、どうしても家事をして子育てをすることは一切考えていないんです。でも暮らすのは母親と子供でしょ。生活する場所としては不適格なんです。
でもデザインは素敵ですよね。ポストモダンというやつかしら。私も好きなデザインですが、実際にお客様と設計を始めると、そうはなりません。温かい建物の方が好まれます。私も教会建物を作りましたが、シンプルでモダンなデザインではありますが、全体的には温かい雰囲気にしました。複合施設として作ったので同じ建物にコミュニティセンターや老人福祉施設が入って、人が温かい気持ちでいられるデザインですよ。
いつも思うのですが、建築は男性より女性がデザインする方が人が暮らすという面では的確なデザインになると思っています。家で家事をしたり子育てする人間が暮らしやすくしなければおかしいでしょ。出来るだけ生活しやすい建物がよいですよね。
これからはそんな時代になるかもしれないけど、この映画の時代には、まだまだ男社会の建築界。冷たくてカクカクしていてカッコいい建築物が好まれた時代です。ラースローは苦労していました。アメリカの建築ルールなどを一切知らなかったので、アメリカの建築家に教わりながらですから辛いですよ。
ラースローは建築現場をいつもウロウロとして、現場の人たちとどんどん関係が悪くなっていったようなんです。だから建築家は現場をいつも歩いちゃダメなんです。自分で設計すれば愛着があるので、どうしても職人がやった仕事が満足でない部分が沢山出てくるんですよ。ちょっと角度が曲がったり、角がピッと出てなかったり、筋が通って無かったり、私も現場を歩いていると凄く気になりますもん。でもそこは我慢。絶対にその場で職人に文句を言ってはいけません。現場監督に行って直して貰うのは鉄則です。予算の面もあるので、自分が直接口出しはNGなんですよ。
そんな建築家あるあるが沢山詰め込まれた映画で、私はとっても理解出来たし面白かったです。それにしても、自分のトラウマを人から頼まれた建物に入れちゃうって酷いなぁ。人からお金貰って、人の建物を建ててるんだから、施主の思いを盛り込むのが建築家の仕事でしょ。ホント、この時代の建築家が傲慢です。現代でもそんな建築家いますけどね。
妻のエルジェーベトも強烈だったな。才女でオックスフォード大卒業で新聞社で記事を書いていたっていってたかしら。そんな女性だから強いんです。そして彼女にラースローが”この国では受け入れて貰えない。”という場面があって、何言ってんだと思いました。あのね、移民なんだから「郷に入っては郷に従え」で、その国のルールに従わなければ上手く行くわけがないんです。自分の思い通りではなく、相手の思い通りに動くしかないんです。どうしても受け入れて欲しいなら、以前に住んでいたところに戻るしかない。それが道理というものです。
面白い映画でした。建築家という部分で自分と被るのでのめり込んで観てしまったと言うのもありますが、安住の地を探して移住してきても、そう簡単には思い通りにならないということです。どんなに有名だった建築家でもそれは一緒なんです。
この映画、ベネチア国際映画祭で銀獅子賞に輝いていて、ゴールデングローブ賞でも受賞、アカデミー賞でも10部門ノミネートされています。賞を貰っているからという訳では無いですが、これは面白い映画でした。
私はこの映画、超!お薦めしたいと思います。良い映画でした。映像も美しくて建築マニアの私も色々な建築物が観れて満足でした。とっても長い映画だけど、これから建築関係を目指す人や自分の居場所が無いと思っている方などに観て欲しいかな。居場所は与えられるモノではなく、自分で探して自分で作るモノです。自分が受け入れなきゃねぇ。ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「ブルータリスト」